第37話

中へ入ると、清一郎が鼻唄まじりで朝食の用意をしているところだった。

「珍しい事もあるもんだ、愛が独りで起きて来るなんてな。雨でも降らなければ良いんだが‥‥」

愛丸に気付いた清一郎が茶化すように言った。

何時もなら何度起こしてもなかなか目を覚まさない愛丸が、今日はちゃんと独りで起きて来たのだから清一郎がそう言うのも無理は無い。

「どうせ俺は寝坊助だよ。それより零知らない?」

 愛丸は一応に反発してみせてから、零の姿が見当たらないので鞄を椅子の上に放り出して清一郎に尋ねた。

「零なら境内の掃除をしているよ」

「掃除?兄貴そんな事言い付けたのか?」

愛丸の口調は明らかに清一郎を非難している。

「人聞きの悪い事を‥‥零が自分からやるって言い出したんだよ、やっぱり気を遣ってるんだろう‥‥」

「気なんか遣わなくて良いのに‥‥」

「そうだな、零にそう言っておくよ。それより、支度が済んだのならご飯にしよう、零を呼んでくる」

(ご飯‥‥ゲッ!マズイ)

「お、俺が呼んでくる!」

愛丸は咄嗟にそう言うと、慌ててダイニングを飛び出してた。

(ああ、また何か言い訳を考えないと‥‥)

愛丸は玄関を出て境内へ向いながら溜息を吐いた。

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