第20話
「それで?」
愛丸は海老のケチャップ煮に目をやると、その一つを指で摘んで口へ放り込んだ。
「愛、行儀が悪いぞ!」
清一郎は愛丸の仕種を咎めて先を続けた。
「不思議なことに人間というものは、自分の心の許容範囲を超える出来事に遭遇すると、つまり、恐怖というインパルスがあまりにも強烈過ぎると、無意識のうちに何等かの力が働いて正気を保とうとする。言わば記憶喪失は人格破壊を防ぐ為の代償という訳だ」
「要するに、現実逃避ってことだろ」
清一郎の言葉に愛丸は素っ気なく返した。
「そうだな……」
清一郎はなぜか優しい眼で愛丸をじっと見詰めた。
「でも、現実から逃げなければならない程辛い事が有ったのだろう……」
清一郎は愛丸を見詰めたまま静かに言った。
そう言われても、愛丸には実感が湧かない。今迄それほど怖い目に遭ったことなど無いのだから、当然と言えば当然だろう。
「とにかく、二、三日家でゆっくり休ませよう。後の事はそれから考えても遅くはないだろう……さ、食事にしよう」
清一郎はそう言って合掌すると、箸を手に取った。
「それじゃ、俺も、いっただきま~す」
続いて合掌した愛丸も食事を頬張り始めた。さっきラーメンを食べたばかりだというのに、若い愛丸の胃袋は底無しだ。
ミリアの事で食事をする気分ではなかったのに、いざ箸を付けると次から次へと口に入って行く。
そうして、アッと言う間に清一郎が用意した食事を平らげてしまったのだった。
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