逃避行

式典は盛況のうちに幕をとじた。

翌日から受注分の筐体を製作するため、早速準備に取り掛かる。

ラボは変わらず開発に専念するが、製造のための工場が隣接され最終的なチェックは専門スタッフによって行われる。


ルイスは本格的な稼働前に休暇をもらいたいと所長に願いを提出した。

彼にチーフとして活躍してもらうつもりだった所長は難色を示したが、ここまで漕ぎ着けたのはルイスのおかげであり、昼夜を問わず尽力してくれた感謝も込めて、彼の望み通り二週間の休暇を与えた。



その日の深夜、ラボからこっそりレアを運び出し、いや、一緒に逃げ出した彼は、このまま遠くで身を隠すつもりだった。


 彼女さえ居てくれたらもう何も要らない。


それどころか、戦争の道具を作るための片棒をかつぐのはごめんだと、彼は思っていた。



一体何億もする筐体をそうやすやすと量産できる訳では無い。製造は慎重かつ丁寧に行われる。

販売は国内のみとし、政府や軍部以外の人物が購入する際は厳しい審査を何重にも実施。さらに民間に供給されるものはあくまでも護身用に使用されるようにスペックを落として製造された。


自分が不在でもある程度まではスタッフで進められるようにプログラムも組み込んで置いた。

よほどの事がない限り電話で呼び出される事もないだろう。

ルイスは二週間を越えてからは一切の連絡を断つつもりで、その準備も万端に整えていた。


空港へ向かうタクシーでルイスはレアに話しかける。

「南フランスは始めてだろう」

「うん!とっても楽しみ!」

受け答えは完璧だ。彼女には娘というつもりでと話してある。プログラムに頼らなくてもそれについては言葉で理解してくれた。

「母さんが大好きだった国だ。思い出の場所をたくさん巡ろう」

「うん!」

先に逝ってしまった奥さんを偲んで父娘で旅をするんだろうと、タクシーの運転手は微笑ましく思った。

空港に着いて「良い旅を。素敵なお嬢さんですね」

と声をかけられ

「ありがとう。自慢の娘だ。お釣りはいいよ」

と気分良く降りた。

 誰がどう見てもこの子は人間。そして私の

 娘だと言っても何の疑問も持たないだろう。

チケットを手に、二人は浮き浮きしながら搭乗口へ向かった。



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