脚光
催し物には最適の快晴だった。
朝早くから準備を進めたラボのスタッフは、政府や民間の大物達を前に緊張していた。
お腹の出っ張りだけは他のVIPと劣らない所長が壇上に立ちマイクを握る。
「えー皆様、大変お待たせ致しました。それではこれより、我らが最高傑作、
GENE humanoid(ジーン(遺伝子)ヒューマノイド)・プロトタイプをお目に掛けます!」
事前にラボ内で説明を受けた各首脳達は、じらされる思いでそのシーツがめくられるのを待った。
そしてシーツが全て撤去され、ガラス張りの箱の中に立つ、目を閉じた巨人が姿を現した時
「おおぉーっ!」
と歓声が上がった。
その声には畏怖の念すら込められている様だった。
「ルイス。スイッチ・オンだ!」
「ラジャー」
ルイスが専用スイッチを押すと、巨人はゆっくり目を開いた。
まるで長き眠りから目覚めさせられた悪魔の様だとルイスは思った。
「さぁ、ここからが本番です!」
所長のロバートはマイクを持ち替え、興奮した鼻息を抑えきれない様子でプロトタイプに指示を出した。
「扉を開けて、箱の前に出ろ!」
ジーンヒューマノイドの巨人は自然な動きでガラスの扉を開けて外に出る。
来賓者達は想像していたロボットの様な動きとは違い、自然な動きを見せるヒューマノイドに実は人間が入っているんじゃないかとさえ思えた。
箱の前に立った巨人はその風貌らしからず、丁寧にお辞儀をして見せた。
「ブラボー!!」
観客達から盛大な拍手が送られる。
ロバートはニンマリとして
「皆さん、本当の凄さはここからです」
と用意していた物をスタッフに準備させた。
大きな箱の中から様々な武器が目の前のテーブルに並べられる。
ロバート所長はさぁここが見せ場だとばかりに声高に観客用マイクでしゃべり始めた。
「ご安心下さい。ここに並べられた物に実弾は入っておりません。これは、ヒューマノイドがここにある全ての武器を使いこなせるという説明の意味で用意しました」
中には軍事機密の特殊なランチャーロケットまである。もちろんレプリカだが。
「この巨人、破壊力はもちろんの事、これだけの武器を箱に入れたまま一度に運べる程の力持ちです。戦地では運搬員として重宝するでしょう。でも基本的には彼にこれらの武器類は必要ありません」
観客たちはどういう事だろうと首をかしげる。
すると、100メートル程先の芝生にテニスボールの乗った台が自動でセットされた。
ロバートは得意げに
「彼の武器は、これです」
と手で拳銃の形を作ってみせる。
なんだやはりピストルじゃないかと周りがざわざわし始めた時、ロバートはマイクを持ち替えて命令した。
「射撃命令。目標、100メートル先のテニスボール」
すると巨人はロバートと同じく右手でピストルの様な形を作った。
次の瞬間、
「パン!」
という音と共にテニスボールは砕け散った。
突然の出来事に周りは驚きを隠せない。
ロバートが説明する。
「彼は、体内のエネルギーを指先に集めレーザーを放つことが出来ます。エネルギー源とするバッテリーは無可動状態なら2000時間。休みなく働かせても2カ月は持つ強力で特殊な電源を搭載しています」
何ということだ、と来賓たちは想像以上の技術に「オーマイガ…」と口々に言った。
だが、これで終わりではない。
ロバートは駐車場に停めてある1台の黒い車を指さした。
「あれはどなたのですか?」
グローバル会社のオーナーが「私のだ」
と手を挙げる。
「あなたの車はさぞ頑丈に作られているんでしょうね」
オーナーは鼻を膨らませて
「もちろんだ。ガラスは防弾。車体は政府要人車両に引けを取らない作りになっている」
と自慢げに話す。
「わかりました。では。 ――破壊命令。目標、駐車場中央の黒い車」
巨人は手を降ろし、口を開いた。
何をするのかと全員が注目すると、口の中に赤い光が灯り、ヒョオーッという初めて聞く音がする。赤い光が眩い程になった時、彼の口から砲弾の様な物が飛び出した。
砲弾は軌跡を残すこともなく、一直線に黒い高級車めがけて飛んでいき、頑丈な車体は一瞬で爆発して燃え上がった。
「お、うわぁぁぁー!」
声を上げたのは持ち主だけではない。そこに居た全員がその威力に腰を抜かしそうになった。
メラメラパチパチと音を立てて燃え盛る様子をみんな無言で見つめていたが、ふと
「…わ、私の車が!」
とオーナーが叫んだ。
ロバートは彼の方を向いて
「申し訳ございません。勝手に標的にしてしまって。同じ物を弁償します。このヒューマノイドが売れれば、あなたの車を買い替えて差し上げる事など造作もない」
満足そうに彼は告げた。
持ち主であるオーナーは
「…いや、そうではない。頑丈さを誇るあの車を、一瞬で鉄くずに変えてしまった破壊力に驚いているのだ。…車はいいから、同じヒューマノイドを一体寄越してくれ」
万面の笑顔で
「お買い上げ、ありがとうございます」
と言ったロバート所長の言葉で会場は大きな笑いに包まれた。
そこからは契約書や取り扱い説明書、注意事項などを表記した書類が次々と人々の手に渡った。
ルイスは、この恐ろしい怪物が本当に量産されてしまう事を考えると、大金を手にする喜びより暗雲の未来を想像して寒気がした。
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