【3-1K】World's Wasted Weight

ある日、私は試すことにした。


この世界の“おかしさ”を、はっきりと確かめたくなった。


教科書に載っていた、あの単純な実験──落下の実験。


高い場所から、いくつかのものを落とし、落下にかかる時間を測る。空気抵抗の少ないものほど速く落ち、重さには関係ない──それが、「正しい物理学」のはずだった。


私は水滴計を作らせた。一定間隔で落ちる雫で、時間を測る。


まずは、素のままの石。高さから落とす。──水滴2つ分で着地。


次に、体感で同じ重さの布きれ。空を舞うようにふわりと落ち、3滴分。


予想通り。空気抵抗がある分、遅く落ちた。


問題はその次だった。


──石を布で包んで、落としてみた。


重くなったはずだ。空気抵抗も大きくなった。だから、本来は少し遅くなるか、せめて変わらないはずだった。


なのに。


── 一滴で、落ちた。


重くなった分、早く落ちた。


私は呆然とした。念のため、何度もやり直した。布の材質も、巻き方も変えた。それでも──結果は変わらない。


私は計算した。水滴と落下時間の比率から、重力加速度を導き出した。


……9.8 m/s²。水滴の落ちる間隔すら、私がその数字を出せるように、調整されている気がした。


それは、“私の知っている値”だった。私が覚えていた、かつての世界の“正しさ”だった。


気づいてしまった。


異世界が地球と全く同じ重力加速度?しかも、それは試験問題として端数を切られている数字。私が知っている数字。


この世界は、「私が望んだように」動いている。


この世界の物理は、現象の再現ではない。「正しさへの忠誠」だ。


わたしの記憶にある“正しい数字”が、この世界にとっての“現実”になってしまった。


私は石を何度も落とす。


そして”彼女”にふいに声をかけられ振り向いた。


そして、背中の石は


──落ちなかった。


見られていなければ、物体は落ちない。重さも、加速度も、「誰かがそうであれ」と願わなければ、成立しない。


この世界はもう、物理法則で動いてなどいなかった。


物理は完全に死んでいた。わたしのように。この世界は、愚かで滑稽だった。わたしのように。

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