4、耳たぶに揺れるイヤリング
彼女は、自分のことをフーリエと名乗った。フーリエには兄弟が一人と、飼い犬が一匹いた。休みの日は、愛犬と一緒に近所の公園でフリスビーをして遊ぶの日課だと話してくれた。彼女は銀色の小さな円いピアスをしていた。髪をかき分けたとき、対向車のライトがすれ違いざまに、彼女の耳に向けて素早く光を飛ばすと、銀色だったリングの色が赤や緑に変わっていった。サリーはアクセルを踏む。ギアが変わり、エンジンの音が高くなった。黒いボンネットに移るビルディングの光が様々に模様を変えては、通り過ぎていく。それは時間が加速度的にスピードを上げ、僕らを残し、未来へ過ぎ去ることの比喩だった。僕はフーリエのピアスばかりを見ていた。揺れたり、色を変えたりして、うっとりとさせられた。
「そんなに、私の耳が気になるの?」とフーリエ。
「今ほら、そこのお店のネオンが黄色だっただろ。そうすると、光を反射して、君の耳元のリングも色を変えるんだ。
「それで?」とフーリエ。
「僕は色が反射するのが綺麗だったから、見とれてしまったのさ」
「見たいなら、好きなだけ見ていいのよ」
そう彼女は言うと、車の後部座席の隣に席を詰めて来た。彼女からは、いちごパフェの香りがした。さっきまで食べていたハンバーグやたばこのにおいも混じっていた。
「そうしたら、もう少しそばで見てもいいですか」
「いいわよ。私も人に見られるの好きなの。」
彼女の耳たぶにあるピアスをよく見ると、それはピアスではなく、イヤリングだった。イヤリングたちは、必死になってその両腕で彼女の耳たぶにしがみついており、サリーが急停車をしたり、時速150キロで急カーブを強引に曲がって、道を迂回しようとしたりすると、その顔が赤くなるのが分かった。
「ただ色を反射しているだけではなかったんですね」
「このイヤリングは、学校で友だちがしていて、それをもらったの。親友で、でもどうしても彼女の耳にはこのイヤリングは合わなくてね。人と人と同じように相性が、ものと人の間にもあるのよ。この子たちは、少し小柄な私の方がいいっていうの。だって、あまり背の高い人だと、高い場所から落ちたとき痛いでしょ。」
「君はそんなに小柄には見えないよ。」
「お世辞はいいのよ。でも、ありがとう。」
そういうと、フーリエはコカ・コーラのジュースをストローで音を立てて飲んだ。席が近いと、彼女の体から熱が伝わってくる気がした。何かの拍子に腕が当たったり、組んだ足が揺れて、私の膝に触れたりした。意識がもうろうとしていて、お酒も飲んでいないのに、酔っぱらっている気分だった。
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