2、ナイフが20センチ刺さる
「でも、だからといって自転車をそのまま土手においてきたのかい?」
サリーはいたく感心した様子で、話を聞いてくれた。
「あまりにも、あの自転車は重すぎたんだよ。」
そういうと、自分を納得させるためにそんなことを言っているような気がしてきて、気が滅入ってきたので、もう自転車の話はよそうと思った。
「ところで、君にもガールフレンドはたしかいたよね。」僕は聞いた。
「あー、あの子ね。でも、最近はご無沙汰だよ。会ったって、いつもお互いに別のことを考えているんだ。顔を見れば分かるさ、もうそろそろ潮時だってね。」
そのレストランは、がらがらだった。フォークとナイフの触れ合う音が店の中に響いた。ウエイトレスはピンク色のエプロンに、上下黒の服を着ていて、磨き上げられた黒の光沢のある靴とズボンの間から見えるソックスの色だけが、白かった。彼は丁寧にステーキを切り分け、一枚一枚をよく噛んで食べた。
サリーには今まで何人かの女の子がいた。その都度、開けっ広げに何でも事情を事細かに教えてくれた。彼はこと恋愛に関しては先輩であり、どうして彼のような人がそれほど魅力的になれるのか分かりかねたが、相談できる相手は彼ぐらいだった。
「例えば、空に鳥が飛んでいたとする。で、君だったら、その鳥をその場面でどうやって利用するかだ。これはかなりの高等テクニックだが、やり方には色々ある。」
サリーは言った。彼の口からはまだ血抜きが不十分だった牛肉から血が滴り落ちていて、僕らの使っていたテーブルは赤いワイン色の血の色に綺麗に染まった。
「僕なら、銃であの鳥をもし撃ち殺せたら、君とキスしてもいいかなと聞くかな」
「駄目だ、駄目だ。そうやって、してもいいとか、もしかりにとか言っているから、弱弱しく見えてしまうのだよ。大切なのは自分が相手の目にどう映るのかをよく知ることだ」
「それなら、何か手品を使って、隕石を落下させて、その鳥をそのときの熱で焼いて、彼女にローストチキンをご馳走するのはどうかな」と僕は言った。
「それは、不可能だろ。どうやって君は隕石を落とすんだ。それに、ローストチキンにするためには、相当な距離を移動した経験のある鳥でなければ、私の経験上味が落ちる」
彼は手にしたナイフとフォークを交互に投げて、お手玉のように回しながら、ワインを飲んだ。そして、何かいいアイデアでも思いついたのか、私の顔を見てにやりと笑った。ナイフは先端からテーブルに鋭く落ち、20センチほど突き刺さった。
「よければ、これから練習をしてみよう。あそこに座っている子が見えるか」
彼はそう言うと、その子の方を見よと目で合図を送った。彼女は一人でイヤフォンをつけて僕の頼んだハンバーグセットと同じメニューを食べていた。何か考え事をしているようで、窓の外に細かい雨が当たり、街頭に照らされてゆらゆらと曲線を描きながら地面に滴っていくのをぼんやりと見ていた。雨の粒たちも、少しの間だけでも、自分が、暗闇の中、地面に落ちる前に、人の目に映るのを喜んでいるようで、泣いていた。彼は急に立ち上がると、彼女のテーブルの方に向かって歩いて行った。
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