第5話イルカたち 星利side

“なんか、ここで初対面なのにどこかで会った気がしてさ”

“ここで初対面なのにどこかで会った気がする…”

“…なんだろ。

やっぱりどこかで会った気がするよ”


リビングを出て、自分の部屋に入った俺の脳裏に、春風の言葉が浮かぶ。


…あいつ、いったいなんなんだよ。


俺はそう悪態づきながら枕元の木の箱を開ける。

その中には、俺の大切な宝がある。

俺はその宝に優しく触れる。


“なんか、ここで初対面なのにどこかで会った気がしてさ”


まさか、あいつな訳ないよな…。

だってあの子は、人魚なはずだから。


時を遡ること、俺が8才だった頃。

その年の夏、俺は家族と一緒にとある島に滞在していた。

事件はその滞在中に起きた。

俺らは近くの海で海水浴をしていた。

俺は泳げるようになったばかりで、浮き輪なしで泳いでいた。

やがて波が荒くなり、両親は俺に海から上がるように言った。

でも俺は反抗し、波が荒いにも関わらず海に入っていた。

それがいけなかった。

やがて父から、怒りの雷の落ちる宣言がでて、俺は海から上がろうとした。


その時、大きな波が俺を背後から飲み込んだ。俺は水を大量に飲み、意識が朦朧となり、遠くで両親が俺を助けようとしているのを耳にした。

しかし俺は、どんど海に飲まれていく。


俺は幼心に「もう俺は死ぬんだ」と思っていた。

そんな矢先、遠くから俺に近づく銀色に輝く人魚がいた。

人魚は俺に近づくと、俺を抱え、海上へ上がっていった。

気づけば俺は海辺に近い岩場で人魚の膝の上にいた。

人魚が俺を心配そうに見る。

「助けてくれて…ありがとう」

俺は人魚に礼を言うと、その人魚の名を尋ねた。

しかし、人魚は何も言わなかった。

代わりに、自身の銀の鱗をおれに渡した。

やがて俺を探していた両親がやってきた。すると、人魚はいつの間にか姿を消した。

俺は両親の抱擁をうけながら、彼女の姿を探した。

しかし、あれは夢だったと言っているかのように姿はなかった。


時を巡り、今の俺は16才になった。

彼女からもらったこの宝は、もう銀色の輝きを失ったが、あの輝きは今でも俺の胸の中にある。

俺はこの旅のなかで、あの銀色人魚にまた会いたい。

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