第2章 イルカの姫君
第5話 目覚めた力
ザクラたちの船は大海原を進み、ザクラたちの故郷が小さくなり、とうとう見えなくなった。
ザクラはそれを見つめ、改めて故郷に別れを告げた。
甲板から離れ、ザクラは船内のリビングへ入る。するとそこには、偶然にもこの船の船員全員が居合わせていた。
ザクラを見かけ、鈴が声をかける。
「ザクラもきたんだ」
「“も”?」
すると、ソファに座っていた、短い焦げ茶色の髪で黒ぶち眼鏡の男が近づいてきた。
「はじめまして。オレは柊 北斗(ひいらぎ ほくと)といいます」
ザクラは自分自身も自己紹介をする。
「私は、春風 ザクラ。同じ船で旅をするのだし、よろしくお願いします」
「春風さんね。こちらこそよろしくお願いします」
「悪いけど、“春風さん”じゃなくていいよ。 春風って呼び捨てでいいし、あれだったら、ザクラって言っていいし」
北斗はそれを聞いて少し驚く。
だが、すぐ納得したように笑った。
「分かった。じゃ、ザクラちゃんね。オレのことも、北斗でいいから」
「うん」
北斗とザクラが会話していると、一人の男がザクラたちの前に現れた。
「あんたが、春風ザクラ?」
「そうだけど?」
「…俺は、風丘 星利(かぜおか しょうり)。以後よろしく」
「よ、よろしく…」
ザクラは星利の顔を見て、少し驚く。
-あれ…?
ここで初対面なのにどこかで会った気がする…。
「ん?俺の顔、なんかついてる?」
ザクラはその言葉で我にかえる。
「あ!ごめん。なんか、ここで初対面なのにどこかで会った気がしてさ」
「………え…?」
「なんかごめんね。あと、これからよろしくね」
「あ、あぁ…」
自己紹介を終えたザクラたちは解散し、ザクラは自分の荷物を片付けることにした。
「今日からここが、私の部屋か」
ザクラが感慨深そうに浸っていたその時、船が大きく揺れた。
「な、なにっ!?」
ザクラは慌て部屋を飛び出す。
すると前から星利が走ってきた。
「よかった!ちょうど呼びに行こうとしてたんだよ!!」
「さっき、船が波で動いたと思えない揺れだったけど、なにか起きたの!?」
「お前の幼馴染、変な怪物に捕まったんだよ!」
「…はあ!?」
「いいから早く来い!お前の幼馴染が、あぶねぇ!」
「えっ!?」
ザクラと星利はデッキへと向かった。
そこには、
トカゲを何十倍にも大きくした怪物が、長い舌で鈴を捕らえていた。
「離して--!!!」
鈴はこういう生物が苦手だったことをザクラは思い出した。
「鈴っ!!」
ザクラは部屋から持ってきた竹刀を振りかざしその怪物に向かっていく。
「え!?」
北斗たちはそのザクラの行動に驚く。
「わっ!?」
怪物に立ち向かったザクラだったが、怪物の長い尾で弾かれた。
「ザクラちゃん!」
「春風!」
「うっ…」
ザクラの視界には、デッキに転がっている竹刀が目に入った。
「ふははは!!その剣ごときで俺を倒せるとでも思ったのか!」
「…怪物が、しゃべった!?」
すると、鈴の身体にまとわりついている自分の舌の力を強めた。
「…く、くるしいっ!」
「鈴!!!」
ザクラは立ち上がろうとするが、さっき弾かれた影響で上手く立てない。
「くそ!!鈴が苦しい思いをしてるのになにもできないなんて!!」
ザクラは自身の無力さに腹が立った。
と、そのとき。
服の下に隠していた海宝石が白く輝きだした。
「え…!?」
「な、なんだ?!」
やがて白い光は船全体を包み込むと、ゆっくりと光は小さくなった。
眩しさに目を覆っていた北斗たちは、光が小さくなったのを感じて目を開ける。
「え!?」
するとそこには、目の前に現れたその白い光をまとう水色の衣を着たザクラがいた。
流れる長い黒髪を潮風になびかせ、首には海の色に輝く石があり、神々しい白く輝く光をまとっていた。
「…ザクラちゃん?!」
「その白い光…、海宝石…。貴様!海救主か!?」
北斗たちはその言葉に唖然となる。
「ザクラちゃんが海救主…?!」
ザクラは怪物に真っ直ぐな目を向けた。
「私は春風ザクラ。伝説に伝わる、50人目の海救主だ。怪物め、鈴を離しなさい!」
「50人目の海救主が、こんな小娘だと? 笑わせるな!」
怪物は舌に鈴を絡めたまま、ザクラに尾で攻撃をしてくる。
「二度も同じ攻撃を受けないよ!」
ザクラはそれをひらりとよけ、怪物の頭の上に乗る。
そして、怪物の頭をおもいっきり踏みつけた。
「うぎゃ--!?」
怪物は舌を噛んだ状態になり、その衝撃で舌の力が抜け、鈴は解放された。
ザクラは落下する鈴をキャッチし、北斗たちに手渡した。
「おのれ!!小娘が!!」
怪物は舌を噛んだ痛さに逆上し、ザクラに怒りをぶつけてくる。
ザクラは手裏剣を出し、左手の中指と人差し指の間に挟む。
「陣!」
ザクラがそう言うと、怪物の上から大きな雫みたいな球体が勢いよく落ちた。怪物はそれをもろに受け、のびてしまった。
ザクラはそれを見て、再び人差し指と中指の間に手裏剣を挟む。
「封印!」
ザクラがそう言うと、怪物の身体は手裏剣の中央の穴に吸い込まれた。
そして、その穴を塞ぐように中央に赤色の石がはめこまれた。
「…すげえ!!あいつが伝説の海救主だったのかよ!」
「この船に乗るとは知ってたんだよ。でもまさか、ザクラちゃんだったなんて!」
変身をとき、ザクラは普段の姿に戻った矢先、北斗たちにとりかこまれた。
「凄いよ、ザクラ。すごくカッコよかった」
「そう…?」
-今のなんだったんだ? 必死に戦っていたからよく覚えてないけど…。
ザクラは今の現状を飲み込めず混乱した。そして、ザクラの身体の力が一気に抜け、ザクラは倒れ込んでしまった。
「ザクラ!?」
「春風!!」
「ザクラちゃん!!」
「う…」
ザクラは運ばれたリビングで目を覚ました。
鈴たちが心配そうに自分の顔を覗き込んでいた。
「あ、起きた!」
ザクラは起き上がる。
「あれ、私…?」
「あれから、ザクラちゃん倒れたんだよ」
「え?」
「多分、海救主の力が急に目覚めて、身体が追いつかなかったんだと思うよ」
「なんでそんなこと、北斗知ってるの?」
鈴が不思議そうに北斗を見る。
すると北斗は、左手首にはめられている腕輪をザクラたちに見せた。
「オレも、ザクラちゃんと同じく力をもつ者だから。オレの力は、火を操る力“火創主”なんだ」
ザクラたちはその事実に驚く。
「それなら北斗」
「ん?」
「さっき、鈴を捕らえていたあの怪物。一体何者なの?」
鈴はそれを聞いて、あの怪物の姿を思いだし、一人で背中が凍る思いをしていた。
北斗は途端に真剣な顔をして、リビングの椅子に座って話し始めた。
「あれは、鈴ちゃんを狙っていたんじゃない。ザクラちゃん、君を狙っていたんだよ」
「…え…?」
「知ってると思うけど、海救主の力の源は、海宝石だ。その石は、とてつもない力を持っている。その力は悪いことにも、ザクラちゃんのように正義に使うことにも利用できるんだよ。おまけに君は、“50人目の海救主”だ。世界を守るやつは、世界征服を狙う者たちにとって、邪魔者だ」
ザクラはその事実に驚くと同時に、自分の立場について考えさせられた。
「だから、ザクラちゃん。君は簡単にやられちゃいけないみたいだよ」
「…わかった」
ザクラは、海救主として旅をすることに対し、自分が少し甘かったことを痛感した。
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