第4話 旅立ちの朝

時が過ぎるのは早く、とうとう出発の日である、若葉の月の7日の朝になった。

自室でザクラは荷物の最終確認をする。

「…よし」

荷物の確認を終え、ザクラは自室を見渡す。

7才の頃、この部屋を自分の部屋としてもらった。辛いことも楽しかったこともあったけど、ここに私は帰ってきた。

旅にでて、この家をはなれるけど、私は帰ってくるのを待っている人たちの場所を守りたい。

ザクラはそう思っていた。


「…忘れ物はないか?」

「大丈夫」

家の門をくぐって外を出たとき、ザクラはふと家の方を振り返った。

「…今までありがとう。父さんと道場を守って」

ザクラは家にそう呟くと、家に向かって一礼した。


幸いにも、ザクラたちが乗る船のある港はザクラたちの街に近く、ザクラたちはあっという間に、港に着いた。

港に着くと、ひときわ大きな船が港にあった。

船首に白亜のイルカの像が着いている、白く大きな船。

この船こそ、ザクラたちの乗る船である。

ザクラはそんな船の間近まで付き添ってくれた、後ろの龍海を振り返る。

「父さん、ここでいいよ」

「ここでいいのか?」

「うん」

龍海はそれを聞いて、ザクラの荷物を手渡す。

「…ザクラ」

「なに?」

「身体に気をつけて頑張れ」

龍海は、もっと伝えたいことがあるのに、言葉がでない衝動に駆られていた。

「うん」

「…元気でな」

「父さんもね」

ザクラはそう言って左手を龍海に差し出した。龍海は伝えられなかった、様々な思いが伝われ、と言わんばかりに強く握りしめた。

「…それじゃ、行ってきます!」

ザクラはいつも家を出るときのように、元気にそう言うと、船の方へ歩いて行った。


船に入ると、先に船にいた鈴が現れた。

「おじさんに挨拶した?」

「したよ。“行ってきます"って」

港に汽笛が高らかに鳴り出発の刻がきた。

ザクラたちは甲板に出て、見送る人たちに手を振り返す。

その人たちの中に、ザクラたちの知っている人たち、お世話になった人たちがいた。


ありがとうございました。

私は、海救主としてこれから頑張ってきます。

だから、どこかで応援しててください。

ザクラたちを乗せた船は、徐々に港を離れていく。

こうして、ザクラたちの旅は始まった。

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