第3話 昔からの仲間

ザクラたちは出立の日に向け、着々と準備を進めていった。

やがて、木々に咲いていた桃色の花はいつの間にか緑色の葉に変わりつつあった。


そんなある日、龍海は練習前に道場の門下生たちを集めた。

「今日は練習前に、皆に話がある。ザクラ」

「はい」

ザクラは龍海に呼ばれ、門下生の中から立ち上がり、門下生たちの前に正座をする。

ザクラが関わっていることを知り、門下生たちはざわめく。

「話というのは、私のことです」

ザクラの言葉に門下生たちのざわめきが止まる。

「突然ですが、私は今月の6日でこの道場を離れます」

「…え!?」

「ザクラ?!」

「ザクラ、何でだよ!?」

「突然ですが、私は伝説で言われている、「伝説の海救主」だそうです」

「…え!?」

「ザクラ、冗談だろ?」

「いや。冗談じゃないです」

ザクラはそう言って、隠していた海宝石を取り出した。

その石を見て門下生たちのざわめきが止まる。

「海の色に輝く石…」

「実は私も先日知ってめっちゃ驚いたんです」

ザクラはそう言って、正座の上に乗せた拳を固く握る。

「私、世界を旅してきます。皆が安全に過ごせる世界を取り戻すために」

そう言うザクラの顔は凛々しく、ザクラがこのことに関してどれだけ真剣なのか門下生たちは分かった。

「…みんな、今までありがとうございました」

ザクラはそう言って深く頭を下げた。

しばらく沈黙が流れた。

「ザクラ、頭を上げてくれ」

ザクラは沈黙が怖くて頭を上げれずにいた。

門下生の言葉を聞き、ザクラは頭を上げた。

そこには、いつものなじみの顔が並んでいた。

「…「行くな」って言っても、どうせお前は聞かないだろ?」

「そうだな、ザクラのことだからな」

「この道場のことはオレらに任せておけ」

門下生たちはザクラを暖かく送ろうとしてくれた。

ザクラはその暖かさに目頭が熱くなる。

「…みんな…。本当にありがとうございました!この道場のこと、任せた!」

「おぅ!」

それからなにも変わらずザクラは練習を終えた。

ザクラが道場の入口を施錠した時、その近くで誰かがザクラを待ち伏せていた。

ザクラはその人物に声をかける。

「なんだ、辰人(たつひと)か。」

辰人と呼ばれた少年は、少し拗ねた顔をして、ザクラに近づいた。

「俺で悪かったな」

「…なんか用?」

辰人は入口前のベンチに腰をかける。

ザクラはその隣に座る。

「…お前、海救主というの本当か?」

「…うん」

「…旅にでるのも…」

「本当だよ」

辰人はそう言って空を見上げる。

「…なぁ、本当に行くのか?」

「行くよ」

「どんな危険があるのかわからないのにか?」

「もう自分のなかで、覚悟はできている。-辰人」

名前を呼ばれ、辰人は顔をザクラに向ける。

「これは、私にしかできないことだと思う。それなら私はそれに全力を尽くして、頑張っていきたいんだ」

そう言うザクラの瞳は真剣だった。

辰人はそれを見て、ため息を漏らした。

「…分かった。ザクラにそんな思いがあるなら、俺はもう止めない。でもな、ザクラ」

辰人はザクラの方を見つめる。

「俺たちはお前の帰りを待ってる。いつ戻れるか分からなくても、帰りを待っている野郎どもがいるというのを忘れないでくれ」

「辰人…」

「…元気でな、ザクラ」

「…うん」

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