第2話 伝説の人

「ザクラさん、持っているか?海の色をした水の滴の形の輝く石。それが海救主の証だ」

ザクラはそれを聞いて首から下げ、服の下に隠しているペンダントを出した。先には王のいう石がある。

「確かにここにあります。で、でもこれ! 10年前亡くなった母が私にくれて…」

「ザクラ。お前の母さんもお前と同じだ。お前の母さんも海救主だったんだよ」

「え…!?」

「世界が全滅する前に、敵を倒さなければならない。そこでだが…」

「敵よりも大きい力をもつという海救主達が、各国を旅をし、世界を滅ぼそうとする敵を倒して欲しいのだ」

王はそう言ってザクラをみる。

しかし、ザクラは自分が海救主であること、さらに伝説でうたわれている、伝説の海救主と知り頭がパンク寸前である。

そして、王の話など耳に入ってない様子だった。

「私がここに呼んだのはそういうことでな…」

「わかりました。私からザクラに言っておきます」

もはや本人ではなく保護者に言っている始末である。

「…とにかく詳しい事は後々手紙などで伝えるから、よろしく頼むな」

「はい」


オレンジ色の夕陽が馬車の中から外を眺めるザクラを照らす。

ザクラの頭の中は王に言われたことばかりで、行きのように帰りは寝れそうにない。

そんなザクラを龍海は心配そうに見ていた。

そんな春風親子が自宅に着いたのは、すっかり夜がふけた頃だった。


「…いろいろあって寝れないだろうが、ちゃんと寝ろよ」

龍海は2階段に上がるザクラに声をかける。

「うん…」

ザクラは自室に着くなり、ベットにダイブした。

「今日はいろいろありすぎて、疲れた…」

ザクラはそう言って顔を上げる。

視界に入ったのは机の上にあるザクラの母の写真だ。


10年前、ザクラが6才の頃この世を去った最愛の母。

死ぬ間際、ザクラの母は幼いザクラに「海救主の証」を手渡した。

「母さん、海救主だったんだね…」

その夜。やはり昼に言われたことが気になって、ザクラは寝れなかった。


翌朝。

ザクラは早くから布団を抜け出し、道場で使用する修行着に着替えた。

そして右手に竹刀を持つ。

「い-ち、に-、さ-ん…」

ザクラは掛け声を上げながら竹刀を振る。

「ザクラ!おはよ。」

竹刀を振るザクラのもとに、巫女姿の少女が現れた。

「鈴! おはよ」

彼女の名は、水神 鈴。

春風親子の住む家の向かいにある、水神神社の娘で巫女である。

「今日はずいぶんはやいわね。なんかあったの?」

ザクラは振っていた竹刀を手から落とした。

「あっ…」

鈴はそれをみてザクラに言う。

「やっぱり何かあったのね。話、聞くわよ?」

「……実はね」

ザクラは竹刀を振るのを止め、昨日のことを話した。


「なるほど。そういう事があったの…」

「もう何がなんだか分からなくてさ…」

それに、と、ザクラは続ける。

「どうやらその親玉に対抗できるのは私だけみたいで、その親玉を探す旅をしなくてはいけないみたいなんだよね」

「え?それって…」

「そう。近いうちに私はこの国を離れる」

「…そうなの…?」

鈴は寂しそうな表情を浮かべる。

「といっても、出発する時間も、私と共に旅をする人も誰かわからないけど」

そう言ってザクラは少し笑う。

しかし、その笑みは鈴から見て無理をしている笑みだった。

「ザクラ…」

その時、龍海が現れた。

「そのことだが、いろいろ決まったみたいだぞ」

「え…?」

ザクラは父から、1通の手紙を受けとる。

ザクラはドキドキしながら、手紙の封をあけた。


“親愛なる 春風龍海殿、ザクラ殿。

先日はわざわざ王宮にまで申し訳なかった。

さて、先日話したことだが、さっそく詳細が決まった。

旅する手段は船、はじめ船員は以下の者たちとする。

春風 ザクラ、水神 鈴、柊 北斗、風丘 星利。

出立は若葉の月の7日。

当日に持ってこれるものは当日でも構わないが、できるだけ当日に持ち込む物は少ないほうがよかろう。

以上であるが、聞きたいことがあれば気軽に私に尋ねるがよい。


緑葉国王”


「……え…?」

「え?」

「…船員の中に鈴の名前…?」

「やった…!!ザクラとお別れしなくて済むよ!!」

「鈴と旅ができるなんて嬉しいな。知り合いが少しでもいるとうれしい!!」

「私も!!」

「しかしな、出立が若葉の月の7日って、あと1ヶ月もないぞ??」

「……え?」


その日の夕方。

道場での練習を終えたザクラを龍海が呼んだ。

「おい、ザクラ」

「ん?何??」

「ちょっと、蔵までこい

ザクラは龍海に連れられ道場裏にある、蔵までやってきた。

「蔵がなに?」

龍海はサビがかかっている蔵の鍵を開ける。

「…お前、今回のことについてどう思ってる?」

「今回のこと…?」

「王様に言われたこと、悪の親玉を倒しにこの国を離れることだ」

「…そりゃ、急に“お前は伝説の海救主だ”って言われて、“はぁ、そうですか”って言わないよ」

「それにさ、私しか倒せないんでしょ?その悪の親玉」

「…おぅ」

「事態もかなりひどいんでしょ?」

龍海はうなずいて、蔵の戸を開ける。

「…それなら私は行く」

「ザクラ…」

「自分にしかできない役目があるなら、私はそれに全力を尽くしたい」

「…そうか」

龍海は納得したようにそう言うと、蔵の中へ入った。

ザクラもそれに続く。

龍海は蔵の中へ入り、何かを探しはじめた。

「…なに探してるの?」

「お前の母親が遺していった遺品だよ」

龍海はそう言いながら探していたものを見つけた。

「お、これだ、これ」

龍海は風呂敷に包まれたものを手ではたき、埃を落とす。

はたき終えるとそれをザクラに手渡す。

「お前の母親は、お前の前の海救主だった。オレと結婚してからは、一般人として暮らしていたんだ。今、オレがお前に渡したのは、海救主についての書物ばかりだ。お前の母親が、お前が「伝説の海救主」であることを知っていて、これらのものを遺したんだ」

「そうだったんだ…」



その夜、ザクラは夜な夜なその包みを開けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る