第七話 名前に込める意味
「名前を考えながらで構わない、もう少しだけ生徒会則の説明をする。入学式で説明があった通り、生徒会則は、生徒会が不定期に更新するこの学校特有のシステムだ。生徒会則は更新されるたびに、生徒に詳細の書かれたメールが届く。学校の掲示板への掲載も行う。各自確認するように」
花梗高等学校の生徒は、学校側が作ったオリジナルのアプリへの登録が義務付けられている。
そのアプリを経由して生徒にメールが届くようになっており、それで生徒会則の共有が行われる。
高校というよりも大学に近い制度である。
さすがは新設。校舎もシステムも最先端だ。
「もうそろそろ名前は考え終わったか? では、考えたやつから前に立って、自己紹介を行ってくれ。もちろん、本名は使わずにな」
ついにこのときがやってきた。
オレはすでに、この学校で使うことになる名前を考え終わっているが、最初に自己紹介をする気はない。
なぜなら、オレはそういうキャラで高校生活を過ごす気はないからだ。
自己紹介の内容でその人の第一印象が決まるが、それと同じく、どの順番で自己紹介をするのかによっても印象が決まる。
この場面で最初に前に立つヤツは、コミュニケーション能力が高くて社交性があるという評価を付けられるだろう。
一見ポジティブに見えるこの評価も、視線を変えると、無駄な期待をされてしまうということだ。
そのためオレの取る選択肢は、最初は様子見で、みんなが眠くなってきた中盤辺りにこっそりと話す。これしかない。
「最初は俺がいきます!」
率先して手を挙げたのは、さっき先生に質問していたイケメン君だった。
人の印象は見た目が九割なんて言われているが、まさに見た目通りの行動だ。
これで、解け切っていなかったクラスの緊張が和らぐことだろう。
イケメン君は教室の前に立って自己紹介を始めた。
「俺の名前は…本名ではないけど、『夢乃望』‼ 学籍番号は 00020006‼ あまり勉強は得意じゃないけど、運動は大好きなんだ‼小学生のころからサッカーをやってて、将来の夢はサッカー選手になること‼夢を望むから、『夢乃望』。気軽に『のぞみ』って呼んでくれ‼よろしく‼」
あまりにも完璧な夢乃君の自己紹介でクラスからは拍手が起こっていた。
あの整った顔立ちと、人の前に立っても物怖じしない精神力、さらにはサッカーが得意と来た。
もし、クラス代表を選べと言われれば、満場一致で彼が第一候補になること間違いなしだろう。
モテまくり確定のステータスだ。
「次‼ウチが行っきまーす!」
次に手を挙げたのは見るからに陽キャそうな女子だった。
「ウチの名前は『小芽生もみじ』! 学籍番号は 00043095! さっきスマホで調べたら可愛い苗字を見つけたから、その苗字を付けてみたんだ! もみじっていうのも、なんかかわいいから付けてみた! 目標は友達をいっぱい作ること! よろしくね!」
これでクラスのカースト男女トップになるであろう人が決まった。
ここからは少し自己紹介がしやすくなるだろう。
「次は僕がいきます」
次はメガネをかけた一見真面目そうな男子だった。
「僕の名前は『天賦才人』。学籍番号は 00050041。僕は他の無能どもとは違って優秀だ。名前も、天賦の才を持った人って覚えてくれよ。幼いころからママとパパから英才教育を受けてきからね、僕は天才なんだ。みんなにも平等に接してあげる。まぁ、よろしくね」
あいつは完全にハブられること間違いなしだな。
それにしても、天賦才人って名前…自分のことを天才だと疑わない人も珍しいな。
とりあえず、絶対に彼には関わらないようにしよう。
「では、次はワタクシが行かせていただきますね」
次に手を挙げたのは、清楚そうな女子だった。
なぜだか、周りに花のオーラが見えてきた気がする。
「ワタクシの名前は『椿ミミ』と申します。学籍番号は 00004033です。名前の由来なのですが、苗字に当たる『椿』はワタクシの好きな植物です。そして、『ミミ』については、お恥ずかしい話なのですが、学籍番号の下二桁が『33』でしたので、そのまま『ミミ』にしました。ワタクシは人と話すことに慣れていないので、どうかお手柔らかにお願いします。これから三年間よろしくお願いします」
守りたくなるような子だ。
これまでが、陽キャ度が高かったり、変な自称天才君だったりしたから、椿さんの澄んだ雰囲気で、自己紹介のハードルはかなり落ち着いた。
本当にありがとう椿さん。
「次、俺な」
次に前に出てきたのは、制服を着崩して、ポケットに手を突っ込んでいる、不良そうな男子だった。
「俺は『飛勝』。学籍番号 00030119」
飛勝君は数秒で自己紹介を終え、険しそうな顔をして席に戻った。
こういうのはあまり好きではないタイプなのだろう。
なぜだかオレは飛勝君と話してみたいと思ってしまった。
この後も自己紹介が続き、残り数人まで来てしまった。
一番最後に自己紹介するのも、なんとなくみんなの印象に残る気がする。
もうそろそろ行かないと最後になってしまう。
そんなことを考えていると、隣の席の女子が席を立った。
「次は私が行きます!」
ここで初めて彼女の顔を見た。
登校のときに出会った、笑顔が似合う、その子だった。
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