第30話

「…それじゃあ、有宇は、ずっとこのままだよ。


ずっと、1人でトマトを育て続けなきゃいけない。」


「……、」


トマトの話覚えてたんだ。


それが少し嬉しくて笑おうとするのに上手くできなかった。ミツが紡ぐ言葉って厄介だなあと思う。

テノールが心地よく私の耳に入ってきて、入り込んでそのまま全身に浸透していく。



「__有宇は、何が怖いの。」


そうして、私の本当の気持ちを容易く引き摺り出す。


本当に、厄介だなあ。




「……出来ない奴だって思われるのは、怖い。


それなら溢れてしまうくらい仕事が降ってきても、まだこいつは“使える“って思われてた方がいい。


ゆ、歪んでるって分かるの。


自分がなんのために仕事してるのか、忘れてしまいそうにもなる。

だけど、それでも、“こいつは出来ない“って思われるのは、やっぱり怖い、」




頬を伝う涙がカウンターを意図せず濡らしていく。

昨日から私、ミツの前で泣いてばかりだ、そう思うけど、吐き出した自分のドロドロの気持ちは、嘘は無くて、それが余計に辛かった。




「当たり前じゃん。そんなの。」


こんな気持ちを曝け出してなんて言われるだろう。

そう思っていたのに、ミツはさらりとそう言って、ぐい、とシャツで私の涙を拭う。



「みんなそうだよ。どんな仕事してる人も、別にそれが仕事じゃなくても。みんな自分をいつもどこかで認めて欲しいんだよ。」


「……、」


「誰かが認めてくれたら嬉しいに決まってる。」


「そっか、」


「でも有宇の言い方はちょっと違うな。

こいつは使える、とか、出来ない、とかそんな寂しい言葉使うな馬鹿。」


「い、いたい、」


私の顔を拭っていたミツの手が、ぐいぐい力を増すから思わずそう呟いてしまった。



シャツに化粧が付くよ、って言ったらもう既にほぼ落ちてるから大丈夫、と何も大丈夫では無い一言を言われた。

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