第28話

「お、折り畳み傘、持ってるし。」


社畜根性のせいで今日は持っていたそれを、強がって伝えた自分に、直後に後悔が襲う。


私、まだこの人と居たいんだなって、嫌でも分かってしまった。




「ふーん。俺はもうちょっと一緒に居たいのに。」


「、」



急に直球ストレートをこんな艶のある声で投げ込まれてしまったら、私はなす術が無いに決まってる。



「…そういうのはダメじゃない?」


「何が。」



クスクス笑うミツを睨みつつ、


「傘、壊れてたかもしれない。」


なんて馬鹿みたいな嘘を急に吐いた私の顔はこの夜の色には削ぐわない赤さを伴ってるに違いないけど。



「…そっちこそダメじゃない?」なんて小さく呟いて、ミツはやはり昨日と同じようにおいで、と私を手招いた。



「…ミツってなんでこんな料理できるの?どこで修行したの?」


「ん?内緒。」


お店に入りながらそう聞いた私に、ミツはふわり瞳で笑ってそう言う。



「…」


「あ、怒んないでよ。」


私はこの人のこと、何も知らない。


知らないし、きっとこの人は教える気も無い。


なのにこんな簡単にどんどんミツに脳内を侵食されていく私には、完全に危険信号が出ているのに。


それでも知りたいなんて、思ってしまうのはどうしてだろう。




Tuesday

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る