第26話
今日も今日とて白シャツに黒のスキニーというなんてことない服装なのに、醸し出される雰囲気は、全然シンプルでは無い。
濃い過ぎる艶にくらりとしてしまう。
「……有宇、聞いてる?」
それを黙って見つめてしまっていた私は、彼の言葉を完全に流してしまっていた。
「あ、ごめん。今日はちょっと、イレギュラーに仕事の引き継ぎ受けたりしたから。」
「……また仕事増やしたの?」
そのまま腰を折って、ずい、と近づくミツの瞳はちょっと怒っているようだった。
それでもあまりに綺麗な深い青に吸い込まれそうになって私は思わず目を逸らす。
「ミツ、それより言いたいことある。」
「話逸らしたな?」
「……ご飯、ありがとう。」
「……食べた?」
「絶交されたくなかったから。」
その言葉に、ミツは楽しそうに「ふうん」と言う。
「おにぎりも、お弁当も、美味しかった。」
「うん。」
「……凄く、美味しかった。元気出たよ、ありがとう。」
笑ってそう言うと、ミツは少し驚いたような顔になって、それから、良かった、と小さく言った。
「誰かと食べるともっと美味しいって、私、知らなかったかもしれない。」
…なんでだろう、ちょっと声が震えてしまった。
ミツはそんな私に、ふ、とマスクの中に息を閉じ込めるように笑ってやっぱりあの優しい温度で私の頭を撫でる。
「馬鹿だなあ。それ、常識だよ?」
「…そっか。」
「ちゃんと、覚えといて。」
そのまま心地よいテノールにそう言われて、私はこくり、と頷く。
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