第25話

◽︎



結局、昨日と変わらない終電に乗って最寄駅からの道のりを歩く。


だけど、昨日とは足取りが随分違うし、涙も垂れ流したりはしていない。



ランチの1時間が無駄だったとは全く思わない。

逆に少し、午後を頑張る力になった。





真っ暗な闇の中で、今日も見つけた間接照明のほわりと柔らかい電球色。


木目調の重厚感のあるドアの隣の小窓に私はそっと近づく。



中はやはり殆どのクローズ作業が終わっていたけれど

カウンターの1番奥の席に座る人影を見つけた。


何やらカリカリとペンを走らせてノートを書いたり、本を確認している彼からは、相変わらずマスクをつけていたけれど、それでもその集中力が充分に伝わった。


「…頑張ってるんだなあ。」


自分だって社畜じゃんか、とさえ言いたくなってしまう。


声をかけない方が良いだろうか。

お弁当箱を返したいと思っていたのだけど。


…それだけじゃ無くて、少し話したいとも思っていたけど。


それはすぐに打ち消して、邪魔するのは申し訳ないと私は来た道を戻る。


_カラン



閑寂としたその隙間を抜けるような、味わいのあるベルの音に思わず振り向いてしまった。



「……こら、社畜。」


「……、」


「結局今日も終電だったの?何してんの。」


マスク姿の彼はドアを閉めてそのまま私に近づいてくる。

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