第9話

「…マスク、ずっとしてるの?」



なんとなくふと疑問に思ってそう聞くと、きょとんと丸くなった瞳がこちらを向く。


だけどその後すぐに綺麗に細まったそれは、なんだかちょっと悪戯っ子のようなあどけなさが顔を出していた。



「…顔、見たい?」


マスクに手をやりながら、やけに艶っぽくそう聞いてくるから、私は変にドキドキが上昇してしまった。



やはりお洒落な店で働く人怖い。



「別に大丈夫です!!」


視線を前に戻して、残り半分くらいになったマグカップをぐい、と仰いだ。


だけど隣の彼は、そんな私の様子を観察して楽しそうに笑う。



「ホールは他のスタッフに任せて厨房にいることが多いからさ。衛生面的にマスクしてると、なんかもうこれがある方が落ち着くんだよね。」


「そうですか、全然ずっとしててください!!」


「言葉に勢いあるなー」



何がそんなに楽しいのか終始愉快そうに笑う彼はこちらを頬杖をついて見つめる。




「…それで?有宇は、何をそんなに泣いてたの。」


「、」



急にど直球にそう切り込まれて、私は身体を一瞬で強張らせる。



恐る恐る、もう一度絡ませた視線の先の優しい瞳。


さっき「助けて」って言った時もそうだったけど、この人の前だと言葉を思わずこぼしたくなってしまうのはどうしてだろう。

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