ミュージックコンテストへの挑戦
本を読むのが好きだ。といっても同級生たちが休み時間におしゃべりして騒いでいるラノベの類いはあまり食指が動かない。世間で評判の受賞作も種類が増えすぎてもはや区別がつかない。わたしはもっぱら大正昭和あたりの純文学や戦国時代か幕末期を描いた歴史物を好む。或いは宇宙や科学について書かれた記事を見つけて飛びつくかだ。
世代的に趣味嗜好は変わっているかもしれないが、読書が好きな影響で歌詞を書くようになった。中学二年生のときから作詞・作曲したオリジナル作品が80曲ほどある。
ピアノ教室で披露したらハルコ先生も真剣に評価してくれた。褒めるというよりは曲へのアドバイスが中心だ。コード進行や間奏のメロディーラインなどプロならではの気づきはとても参考になった。
高校生になると、ハルコ先生の勧めもあってポピュラーミュージックコンテストに応募した。ピアノのコンテストには何度か出場したことがある。しかし今度はシンガーソングライターが集まるコンクールなので別ものと言えるだろう。自作曲を試すにはよい機会だ。
わたしはすでにプロのアーティストになることを目標にしていたから「ゆいしょ舞」の芸名で登録した。
披露するのは『みお』。わたしが初めて作った思い入れのある曲だ。当時読んだ水星探査計画の探査機「みお/MMO」に関する雑誌が懐かしい。
ステージにはグランドピアノが置かれている。ピアノ教室では国内ブランドのピアノを弾いているが、噂に聞いた「スタインウェイ&サンズ」を触るのは初めて。それだけで緊張した。
エントリーナンバーとともに「ゆいしょ舞」とアナウンスされるとまばらな拍手が起きた。一礼して腰掛けると体勢を整えて鍵盤に指を置く。
『みお』はしっとりとしたバラードなのでノリよりも繊細な音色を意識した。
歌い終えるとさっきより大きな拍手をもらえた。
ただ結果はグランプリどころか入賞もならなかった。もちろんそれほど甘くはないと覚悟していたが精神的にまいる。
パフォーマンスを披露するところまでこぎつけたのにこのざまだ。アイドルのオーディションで涙をのんだ女の子たちの悔しさが痛いほどわかった。
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