第12話

目の前には焦げた唐揚げとちょっと甘い五目寿司。

甘じょっぱい厚焼き玉子にタコになる筈だったウインナー。

竹輪に胡瓜やチーズを挟んだ(?)やつ。

姉ちゃんと羽津稀が作ったんだ。

「いやー、我ながら料理の腕が落ちたわ」

羽津稀が言う。

自分で認めてるから俺は大人しく戴きましたさ。

食べられない所までは行ってなかったからなんだけどね。

でも俺は幸せだなって思ってた。

のろけだな。

羽津稀の手料理ってだけで美味しかった。

「知り合って5年かぁ」

羽津稀が桜を見上げながら言う。

「もっと長く一緒に居る感じだよね」

姉ちゃんが続いた。

「これからの方が長い付き合いになるんだ。色々やりたい事やろうぜ」

兄ちゃんも続く。

俺は何故か料理を頬張って何も言えないフリをした。

「何そんな頬張ってんのよ」

羽津稀が呆れる。

だが俺は料理を頬張り過ぎてここでも何も返せなかった。

「変な窓伽」

みんなが笑う。

俺も笑った。

でも何かが哀しくて空気と言うか何かが乾いていたのを俺は感じたのである。

これが俺と羽津稀の物語の前編ってやつなのかな。

たった5年だけど色々詰まってる。

ここから3年位は羽津稀も俺も楽しんでたなぁ。

俺はデザイナーしながらスタイリストになった。

羽津稀は点字を打つ仕事に就いていた。

栞さんも一緒に住み始めた。

この時は楽しいこの時間がずっと続くと思ってた。

羽津稀が病気を乗り越えられたって思いたかった。

あの状態ならきっと誰もがそう思ったと思うんだ。

でも病魔は羽津稀から完全に離れてくれなかった。

そんな中で迎えた27歳の誕生日。

「10000日目が見えて来ましたな」

誕生日のケーキを前に俺が羽津稀に言う。

「そうね」

羽津稀も笑顔で返した。

「籍入れるのまだ待たなきゃダメ?」

俺はしびれを切らしている。

「あと少しじゃない。あたしも待ち遠しいのよ?一緒に待ちましょ」

羽津稀は笑顔を絶やさない。

「ふぁ~い」

俺は口を尖らせた。

「あ、そうだ」

羽津稀が何かを思い出す。

俺はテーブルに顎をつけたまま羽津稀を見上げた。

「里崎先生憶えてる?」

羽津稀が俺を見る。

「さとざきせんせい?」

俺はキョトンとした。

「家庭科部の顧問だった里崎先生よ」

「ああ、カリンちゃんね」

俺はようやく里崎先生を思い出す。

最後は下の名前で呼んでたから名字忘れちゃってた。

「結婚するんだって。葉書来てたんだ」

羽津稀はさっきまでとはまた違う笑顔を見せる。

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