第11話
「あてがないわけじゃない。手当たり次第捜して来る」
俺は羽津稀に背を向けて言った。
「待って」
羽津稀のその言葉に俺は振り返る。
羽津稀は涙を流したまま俺を見ていた。
「傍に居て…」
羽津稀は声を震わせて言う。
俺は一瞬耳を疑った。
「傍に居て、窓伽。窓伽だけでも傍に居て」
羽津稀ははっきりと言い直す。
俺は羽津稀のベッドに座り直した。
初めてだったかな。
羽津稀が病気になってから初めて俺はしっかりとあいつを抱きしめたかもしれない。
羽津稀も初めて俺の胸で泣いた。
そんな時ドアがガタッと鳴る。
俺も羽津稀もドアを見た。
シーンとしている。
俺は羽津稀から離れてゆっくりとドアを開けた。
「はぁい」
姉ちゃんが笑顔で手を振る。
「この状況でそのハイテンションかい」
俺は呆れた。
「今は許してよ。お待ちかねの人をちゃんと連れて来たんだから」
「え?」
姉ちゃんの言葉に俺は止まる。
姉ちゃんに隠れる様に栞さんは居た。
「あ、ありがとう!」
俺はつい大声を出してしまう。
「お静かに願います」
傍を通った看護師に注意されてしまった。
「すみません」
俺は謝る。
「そ、それより中へ」
俺は栞さんを羽津稀の病室に迎え入れた。
栞さんは俯いたまま病室に入る。
栞さんは羽津稀を見れないで居た。
「母さん」
羽津稀が栞さんを呼ぶ。
「ごめんね、羽津稀。母さん、強くならなきゃ…今の羽津稀をまだ見られない…」
栞さんは部屋の中心で泣き始めた。
「泣いても良い。だからーーううん。だけどって言い方の方が合ってる。泣いても良いから受け止めて。これから生きてく円羽津稀なの」
羽津稀ははっきりとした声で言い切る。
「窓伽君が居るからかしら。羽津稀、強くなったわね」
栞さんが羽津稀を見た。
「うん」
羽津稀は笑顔で答える。
強いよ、2人共。
それが俺の感じた事だった。
「羽津稀ちゃ~ん。早く窓伽のお嫁に来て、私の妹になってね~。首を長~くして待ってるから~」
姉ちゃんが羽津稀に抱きつく。
やっぱり姉ちゃんの心臓には毛が生えてるなと俺は確信した。
しかもびっしりとーーだ。
間違い無い。
で、またまた話は飛んで1年半後の春。
俺と羽津稀は22歳になりました。
何でこんなに話が飛ぶか。
それはようやく羽津稀が花見が出来る位に回復したから。
姉ちゃんや兄ちゃん、母ちゃんに栞さんに俺と羽津稀で桜の下で花見。
手術直後のあの時点は正直諦めるどころか考えもしなかった。
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