第12話

「まだ食事中」

「貴方はいつも食事中でしょ。研究は時間かかるんだから始めるのに早過ぎる事は無いの。それに貴方が言ったのよ?貴方の血を調べてみたらって」

「はーい」

フィーロは仕方無く研究室に移動して採血を受ける。

「これで暫くは静かかもね」

フィーロから研究用に採血をしたマリアがクスりと微笑った。

「たかが100mlじゃないか。これ位で貧血は起きないよ~だ」

フィーロはマリアにアカンベーをする。

「検査結果次第じゃ次からは1Lは採るわよ。覚悟しておきなさい」

マリアは負けない。

「はいはい」

フィーロは研究室を出て行った。

「蠅のウイルスに感染した事が無い--か。マリアからも消しちゃったからなぁ、あの時の記憶」

フィーロはイートを撫でながら言う。

『あの時』と言うのが大きなキーワードらしい。

「よぉ、フィーロ」

アクロスがフィーロに背後から声をかける。

「時間止めた?」

フィーロは振り向かずにアクロスに聞いた。

「少しね」

アクロスは素直に答える。

「イートが唸らないわけだ」

フィーロはクスクスと微笑った。

「あ、でも『マリアからも消しちゃったからなぁ、あの時の記憶』って呟いた時にはもう後ろに居たぜ?」

その言葉にフィーロは驚きを隠せない。

目をまん丸くしている。

「この街中の人間が蠅のウイルスに感染した事実の事か?」

アクロスはフィーロの隣に割り込んだ。

「狭いって」

「だったら広いとこ行こうぜ」

「僕はここで良いよ」

「しゃあねぇなぁ」

アクロスはイートの隣に座る。

「いつの間にイートと仲良くなったの?」

フィーロは不思議がった。

「ひ・み・つ」

アクロスはイートをわしゃわしゃしながら笑顔で答える。

イートはアクロスの顔を舐めたりしていて、まるで犬の様だ。

「アクロスは憶えてる?」

フィーロの表情が曇る。

「フィーロが悪魔の子とか悪魔って呼ばれる様になったきっかけ?」

アクロスはフィーロを見た。

「そう。憶えてるか。君が時間を操れる様になったのと同じ時だもんね」

フィーロは哀しそうに微笑う。

「死のウイルスが生まれたきっかけでもあるもんなぁ」

アクロスはケロッとした表情で言った。

「君にこの話をした僕がいけない」

フィーロは頭が痛くなる。

「まさか一般人の血が腐って細菌兵器になるとは誰も思わないわな」

アクロスは笑った。

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