第6話
「ナナシは休ませて。貴方も休みなさい。そうすれば明日は沢山話せるかもね」
マリアは子供に接する様にフィーロを諭す。
「お喋りは今夜でなくても出来るでしょ?」
マリアは続けた。
「マリアには勝てないなぁ。わかったよ。今夜は寝るよ」
フィーロはどう言うとマリアとナナシに背を向ける。
「部屋の地図と鍵だ。その地図に記された部屋がナナシ君の部屋ね。マリア、案内してあげて。僕は僕の気が変わらない内に大人しく眠りにつくよ。じゃあ明日ね」
フィーロはテーブルに紙と鍵を置くとその場から去った。
「相変わらず子供なんだから」
マリアは呆れる。
「いつもあんな感じなの?」
ナナシがマリアを見た。
「どんな風に感じた?」
マリアはナナシに問い返す。
「凄い寂しそう。それでいて哀しい」
ナナシは感じた事をそのまま言葉にした。
「あの様子じゃフィーロのこれまでを全部聞かされるわ。その為にも今日はちゃんと寝ておくのね」
マリアは紙を見ながらナナシに言う。
「一人で寝るの?」
ナナシは不安そうにマリアを見た。
「ここにも居たみたいね。大きな子供が」
マリアはクスクスと微笑う。
「ちゃんと寝た事無くて」
ナナシは困った表情を見せた。
「だったら眠れるか試すのね。それで眠れなければ考えるわ。とりあえず貴方の部屋を見に行きましょ」
マリアはナナシをフィーロが用意した部屋へと連れて行く。
その部屋にはふっかふかでふっわふわのベッドのセットだけが置いてあった。
「夏じゃなくて良かったかな」
マリアはどん引きしてしまう。
「飛び込んで良い?」
ナナシはマリアに聞いた。
「勝手にどうぞ。これはフィーロから貴方へのプレゼント。貴方の物よ」
マリアがそう言い終える前にナナシはベッドに飛び込み、埋もれる。
それ位ベッドはふっかふかのふっわふわだった。
「おやすみなさい」
マリアはそう言って部屋の扉を閉める。
ナナシは雲の上で眠る夢を見た。
一日中眠り続ける。
「まさかこんなに眠るとは思わなかった」
ナナシが心配になって部屋までやって来たフィーロは彼の安眠っぷりに感心した。
フィーロでさえそんなナナシを起こそうとはしないわけでこの日は変化の無い一日として終わる。
その次の日にはナナシの血液と蔓延する死のウイルスを調合して作った血清の試作品が出来上がった。
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