第5話

「抱きつくよ?」

「襲わないでくださいね」

「わからないなぁ」

「それはキツいです」

「僕もキツい」

ナナシの言葉にフィーロは言った。

「一緒の部屋にベッドを並べて沢山話そう。それで僕は充分だ」

フィーロの笑顔に突然寂しさが混ざる。

ナナシはそれを見逃さない。

そして気が付いた。

(そう言えばフィーロの家族を見ていない…紹介されてないだけかな…)

ナナシはそうは思ったもののフィーロには何も聞けない。

そんなナナシに今度はフィーロが気付く。

「僕の家族はマリアやナナシ君だよ。他にこの屋敷には僕の部下しか居ない」

フィーロはナナシの心を読んだかの様にそう話した。

ナナシは何とも言えない表情をフィーロに見せる。

「酷いでしょ。人の弱味につけ込んで家族にさせるなんて」

フィーロはそう言いながらも笑顔を絶やさない。

「だけど貴方は誰もその手にかけていないのでしょう?部下達にも誰かを殺させたりしていないのでしょう?」

ナナシはフィーロを真剣な眼差しで見つめたままそう尋ねた。

「していたら?」

フィーロは笑顔のまま問い返す。

「イエスかノーかで答えられる話だよ」

ナナシは表情を変えない。

「殺していないのは人間だけさ。さっきも見ただろ?僕は肉や魚を食べている。イコールそれは生きていた魚や豚や鳥や牛を殺している」

フィーロは表情を変えない。

ナナシは驚きを隠せなかった。

「誰もが生命を犠牲にして生きている。いや、犠牲にしているからこそ生きねばならない。それが嫌なら飢え死にするんだね」

フィーロは言い切る。

「僕の異名を教えておくよ。サタナエル--サタンとなった天使の名だ。他にも悪魔の子ダミアンとかってのもあったな」

フィーロは楽しそうに笑いながら話した。

だがナナシにはフィーロの中に隠れていた哀しみがただただ伝わって来てしまう。

ナナシはその哀しみに圧し潰されそうになっていた。

「フィーロ」

マリアが二人の元に戻って来る。

「どうかしたのかい?」

フィーロはマリアを見た。

「ナナシを休ませて。さっきの採血によるダメージが癒えやしないわ。彼がダメージを癒せない限り次の採血は出来ないわよ」

マリアはフィーロを注意する。

「ぶー」

フィーロはふてくされた。

「今夜は私も貴方の部屋で寝る事にするわ」

マリアは言う。

「沢山話せる?」

フィーロはマリアに聞いた。

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