第2話
「名前なんて無い」
『彼』は答える。
「じゃあナナシ君で。マリア、ナナシ君を宜しくね。あ、君の過去を話してあげるとナナシ君は君には気を許してくれるんじゃないかな」
フィーロは『彼』を『ナナシ』と名付けた。
名前が無い名無しのナナシである。
マリアはナナシを連れて病院の様な場所へ移動した。
「名無しも名前になるんですね」
ナナシがマリアに言う。
「その内何か名前が付くわよ。あたしも元はナナシよ」
マリアは色々な準備をしながらナナシにそう話した。
「へぇ~」
ナナシはマリアの話に興味を持つ。
「採血って言うには量が多くて時間かかるから針刺した後は眠ってて良いから」
マリアはナナシに言う。
「リクライニングソファーだから寝やすいと思うわ。座って」
マリアは真っ白で大きなリクライニングソファーにナナシに横になる様に指示を出す。
ナナシはすぐに指示に従う。
「他の人達も貴方みたいに大人しく言う事聞いてくれれば楽なんだけどね」
マリアはナナシに採血する為に針を刺しながら苦笑した。
「貴方の血液型は?」
マリアはナナシに問う。
「けつえきがた?」
ナナシは何とも言いにくい表情をマリアに見せた。
「考えた事も無かった感じね。良いわ。どうせそれも調べなきゃならないんだから」
マリアは採血を続ける。
大小合わせて十数本もの採血をした。
「今日はこれで終わりよ。お腹は空いてないかしら?」
マリアは針を抜いて止血の作業をしながらナナシを改めて見る。
「空腹はいつもの事だから」
ナナシは言った。
「だからね。頭ふらふらいつもしてない?」
マリアは一枚の紙を見ながらナナシに言う。
「俺達の居た街じゃ当たり前過ぎて、いつも腹減ったなって笑ってた」
ナナシは懐かしそうにそう微笑った瞬間に涙ぐんだ。
「笑い合えてたんだ。どんなに貧しくても」
ナナシは亡くなった仲間達を思い出す。
「なのにみんなは苦しんで死んでった。中には『お前は何故生きていられる!』って言いながら死んでった奴も居た。どうしたら俺は死ねるんだよ」
ナナシは髪をくしゃくしゃにしながらそう言うと落ち込んだ。
「暫くは死なせてくれないと思うわよ。あのフィーロに気に入られちゃったんだし」
マリアはクスクスと微笑う。
「どうゆう事?」
ナナシはマリアを見た。
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