爽やかな読後感

 難しく考えずに読むのが吉です。どこへ行こうと「合わない」と違和感を覚える主人公がハード面ではなくソフト面で帰郷する、そんなお話。

 表情が音を立てて落ちたりすることもあれば、腹を決めて一歩踏み出してみることもある、どこにでもはいない普通じゃない若者を切り取った本作、

「普通じゃない」とは、周囲に迎合するには自分の能力が突出していたり、それによる望まない未来を拒むという強い意志、信念を持つ少数派という意味での「普通じゃない」。

 それがゆえの悲喜こもごもといった本作、自分は多少の場面転換にまごつきましたが、総じて主人公に完全に感情移入していました。

 特に1話の英会話教室回はこんなにも人間をムカつかせるように書けるもんだなと感心しました。
 最終話もよい回です。いきなりの出会いに警戒し及び腰となりますが、それを踏み越えた主人公の心地よい疲れは、たとい早朝に読んだとしても共感覚を呼べるのではないのでしょうか。

 これを現代ドラマと呼ぶか青春と呼ぶか、はたまた苦悩と成長を描くヒューマンドラマと呼ぶかは人それぞれでしょうが、自分は「青春」でした。
 悩み、挫け、ぶつかり、出会い、己の未来を見る。
 甘酸っぱくもないしカルピスの味もしないけれど、自分の自我を固めてゆく主人公の姿は青春そのもの。

 これが純文学なのかは純文学を知らない自分には判じえませんでしたが、とても爽やかな読後感であったという点は強調したい作品です。