第13話 村への来訪者 3

「では改めまして、私はローナシア=ロア=ログレア。先程テディも言ってしまいましたが、このログレア王国の第二王女ですわ」


 顔を上げさせられた俺達に、優雅にカーテシーを行いつつ名乗るローナシア王女。しかし、


「殿下、カーテシーは目下の女性が目上の者、もしくは王族へ行う礼です」

「あれ、そうでしたっけ?」


 表情を変えずに訂正するテディさんに、ローナシア王女がきょとんとした顔で首を傾げると、「ええ」と力強く頷く。

 ほんの短い間だが、ローナシア王女を見ていて気付いた。この人、うっかりというか、ポンコツな所があるな、と。


「ま、まあ、相手は剣聖ですから、カーテシーでも間違いではないのでは……」

「剣聖の職を授かったとしても、今はまだ村娘でしかありませんよ」

「そうですよね……」


 テディさんを論破できずにしょんぼりするローナシア王女。やはり、ポンコツなのだろう。

 そんな漫才のようなことをする主従を横目に、ここまで静かなフィルマが気になり横を見ると、立ったまま寝ていた。それはもう、ぐっすりと。

 「こんなタイミングで寝てるんじゃないっ」ていう怒りと、立ったまま寝るという器用さに舌を巻く思いがあり、複雑な気持ちになりながらフィルマを見ていると、その視線に気づいたのか、突然身体をピクッと痙攣させたかと思うと顔を上げた。

 不思議そうに周りをキョロキョロと見渡すフィルマに気付いたローナシア王女が「どうしましたか」と尋ねるが、彼女とテディさんはフィルマが先ほどまで寝ていたことに気がついていない。のだが、


「……あ、私寝てたんだ」

「寝てたんですか!?」


 思いっきり自分でばらしてしまっていた。それに衝撃を受けて目を見開くローナシア王女に、フィルマはまたしても「やっちゃった!」とばかりに冷や汗をダラダラと流しながら視線を左右にキョロキョロと彷徨わせる。


「な、なんの事ですか……?」

「いや今ご自身で言ってましたよね、フィルマさん」


 誤魔化そうとするフィルマをジトーっとした目で見つめるローナシア王女。二人を見ていて、「何か馴染むの早くないか、この二人」と思っていると、


「殿下。そろそろ本題を話すべきでは?周りの者も待ち草臥れていますし」

「あらっ?本当ですね」


 テディさんの言葉に周りを見れば、集まっていた村の皆は近くの人と雑談を始めていたし、村長に至っては長時間立っていたのがきついのか。何処かからか運ばれてきた椅子に座っていた。


「では、改めまして……。今代の剣聖フィルマさん、貴女にログレア王国の王族として、そして今代の舞姫を授かった者としての要請です。来たる災厄へ備える為、私と共に来ていただけないでしょうか」


 真剣な表情でフィルマを見つめるローナシア王女。流石に空気を読んだのか、フィルマの顔つきも変わった。


「来たる災厄って?」

「城に仕える占い師の職の者達が、新たなる魔王の出現を予言したのです」


 そのローナシア王女の言葉に村の皆がザワザワッと騒ぎ出す。しかしそれは仕方のない事だ。俺も驚いてしまったし。

 魔王。それはかつてこの世界を滅ぼそうとした化け物であり、いまだなおその爪痕が残っているのだ。

 フィルマの授かった『剣聖』の職はその魔王と戦い、勝利した勇者一行の一人が授かった職業である。因みにローナシア王女の職である『舞姫』もまた勇者一行の一人の職だ。


「だからフィルマさん。貴女の力をお貸しください」


 そう言ってフィルマへ向けて頭を下げるローナシア王女。だが、フィルマはそれに返事をせずに俺へと視線を向けてきた。


「セイル、私はどうしたらいいと思う?」

「え、ここで俺に聞くの?」

「だって、セイルの言う事はいつも正しいし」

「そんな澄み切った瞳で言うことじゃないでしょ……」


 何を至極当然な事を聞くんだろうといった様子でキョトンとするフィルマに少し怖く思ってしまう。


「成る程、将を射んと欲すればまず馬を射よ。と言う訳ですか。……セイルさん!」

「聞こえてるんですよ、全部」


 フィルマから俺へと向き直るローナシア王女にツッコミを入れると、「あ、聞こえてしまいましたか」と愛想笑いで誤魔化すローナシア王女を、テディさんは残念なものを見る目で見ていた。いやテディさん、一応貴方の主ですよね?


「それで、セイル。私はどうすれば良いのかな?」

「セイルさん。返事をお願いします」


 ジッと俺を見つめるフィルマとローナシア王女。更にテディさんや他の騎士達、村のみんなも俺を見てくる。


「何で……何でこんな重要な事を俺に任せるんだよみんなぁっ!!俺はまだ十歳、準成人とは言えまだ世間では子供と呼ばれる年齢なんですけど!?」


 ……と言えたらどれだけ楽か。俺は胃に幻痛を感じながらも「少し、考えさせて下さい」とだけしか返す事ができなかった。

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