第14話 答え

 ローナシア王女と話した夜。俺の家にフィルマの今後を話す為にフィルマが来ていた。


「……いや、フィルマ」

「なに?」

「おばさん達は?」


 何故か一人で来たフィルマに彼女の両親はどこかと聞くと、「セイルになら私の事任せられるって」と返され、何でそんなに信頼度が高いのだろうかと口元が引きつってしまう。


「いやいやいやいや……。自分の娘の事だろ!?」

「これは責任取らないといけないねぇ」

「ニヤつきながら言うなよ母さん!」


 茶々を入れる母さんに言い返しながら頭を抱える。そんな俺の様子を不思議そうに見ながらお茶を啜ると、フィルマは口を開く。


「セイルの言う事は正しいんだから、気にしなくてもいいのに」

「他人の……それもフィルマの人生を決めるなんて俺にはまだキツイよ」

「大丈夫だよ。責任取ってくれたら!」


 笑顔で言い切るフィルマを思わず二度見する。その責任ってどういう事なのか、俺は少し怖くて結局その言葉の意味を俺は聞き出すことは出来なかった。





 翌日。ローナシア王女に返事をする為、彼女達が泊まっている集会所へとフィルマを連れて訪れる。


「それでは、返事を聞かせて貰いましょう」


 「フィルマさんを救世の為、送り出すか否かを」と真剣な表情で俺達を見つめるローナシア王女。フィルマは俺の横でギュッと手を握ってくる。ふぅ、と息を吐いて気持ちを落ち着かせると、ローナシア王女を見据えて、返答する。


「俺は、フィルマには傷ついて欲しくありません。平和に暮らして欲しいなんて思います。……けど、同じぐらい後悔なんてして欲しくありませんし、顔も知らないけど、この世界の多くの人を見捨てる選択なんて、ただの庶民……それもまだ自分の人生の責任もしっかりと取れないような子供の俺には出来ません。だから……」


 そこで言葉を区切る。緊張でフィルマと繋いだ手に力が入ると、フィルマは驚いた顔をした後、微笑んで俺の手を握り返してくれる。


「俺も……連れて行ってくれませんか」

「それは、どういう……?」

「すぐ近くでフィルマを支えてやりたいんです。……それに、約束もありますし」

「セイル……っ!」


 俺の言葉に感極まったのか、フィルマが抱き着いてくる。驚いていたローナシア王女が微笑ましい物を見たかのように目を細める。


「セイルさんの職は?」

「……生産者って言う、生産系の職です」

「そうですか」


 俺の答えに目を閉じた後、鋭い視線でサファイアブルーの瞳が俺を貫く。先程までの、何処か気安さを覚える雰囲気から一変した、上に立つ者としての気迫を纏うローナシア王女に気圧されて、俺は生唾を飲み込む。


「私やフィルマさんが戦うこととなるのは伝説になる程の凶悪なる災厄、魔王。その戦いは苛烈なものになるでしょう。……セイルさん。貴方にはそれに挑む覚悟が、命を懸ける覚悟がお有りで?」

「そんなの、とっくにしてきたよ。フィルマに……大切な幼馴染だけにそんな重荷を押し付けるわけには行かないしね」


 ローナシア王女は俺の答えを気に入ったのか、「そうですか」と言ってほころぶような笑みを浮かべる。

 フィルマは俺の言葉が嬉しかったのか更に力を込めて抱き締めてくる。……って痛い痛いっ、苦しい苦しいっ!!

 慌ててフィルマの肩をタップをするも、気付いていないのか、一切力が緩まない。あ、もう駄目。


 そう思った瞬間、俺の視界は真っ暗に染まってしまうのだった。






 その後、意識を取り戻した俺にフィルマが抱き着いてまた絞め落とされそうになったのをテディさんが止めてくれたり、父さんに俺の貰った土地は俺が帰ってくるまでガスタフさんが代わりに面倒を見てくれる事になったり、俺が母さん達と暫しの別れを惜しみながら挨拶をしている横でフィルマ一家が「まあ、頑張れ」「うん、頑張る」と淡泊すぎる会話をしていたりと色々あって、ローナシア王女に宣言した翌日。俺とフィルマは住み慣れた故郷、タリア村から旅立ったのだった。


―――――――――――――――――――――――

 タリア村編が終わったので少し間が空きます。

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