第5話 グスタフさんの鍛冶仕事
グスタフさんの家に入り廊下を進むと、茶色いシックな扉の前にグスタフさんは居た。
「ほら、こっちだ」
そう言ってグスタフさんが開けた扉の先を見ると、そこはこぢんまりとした鍛冶場だった。
「少し狭いが、二人で仕事するには充分だ。……取り敢えず打つからよーく見ときな」
そう言って、箱の中から赤い宝石のようなものを取り出した。
「兎にも角にも、鍛冶をするには火が必要だ。それも、飛び切りに熱い炎がな。……そのために必要なのがこの火の魔法石さ」
「魔法石……?」
「おうよ。魔法石ってのは魔石……魔物を狩ると手に入る魔力で出来た石だな。それを加工して属性を付けるんだ。これは火の属性を付けた魔法石だな」
「へぇ……」
早速ファンタジーな要素が出てきて、少しワクワクしてきた。
そんな俺を横目にグスタフさんは立ち上がると、今度は少し離れたとこに積まれていた藁を掴み、戻って来た。
「とは言え火の魔法石だけあっても、燃えるもんが無くちゃあ火は付かねぇ。そこで炉の中に燃えるもんを先に放り込んでおく。俺の場合はこの藁を使ってる。燃えやすいし、手に入りやすいからな」
そう言って、、炉の中へと藁を投げ入れ、火の魔法石を炉の中に放り込む。
「そして次は材料だ。基本村の鍛冶師が使うのは鉄だな。けど、セイルが目標にしている剣聖に相応しい武器防具の材料なら、やっぱオリハルコンやらアダマンタイトだろうな。まぁ、俺は見たことねぇが。……っと、話が逸れたな。とにかく、これが今回使う鉄だ」
そうして見せてくれたのが、鉄のインゴットだった。グスタフさんは片手で楽々と持っているが、いまだ子供の俺では持ち上げるのにも一苦労、と言うか、動かすことは出来ても持つことは出来ないであろう重さだ。
そのインゴットをグスタフさんは「よーく見ときな」と言うやいなや勢いよく炉の中へと叩きつけた。
「……って、ええっ!?何で叩きつけた!?」
驚きのあまり、思わず叫びながらグスタフさんを見上げると、
「ガハハハッ!そりゃおめぇ、魔法石を割らないといけねぇからだな。ほら、見ろ」
そう言ってグスタフさんが指し示した炉の中を見ると、先程までは無かった炎がボオボオと勢いよく燃え上がっていた。
「火の魔法石は割ると勢いよく炎を噴き出すが、下手すると火傷しちまう。だから炉に入れて十分距離を取った状態で割らなくちゃならねぇ」
「だからって、鉄を叩きつける……?」
「そうすりゃ、楽だからな!」
再び「ガハハハッ!」と豪快に笑うグスタフさんに呆れた視線を向けてしまう。これは流石になぁ……。
「……っと、そろそろだな。よし、セイル。少し離れとけ、危ねぇぞ」
「あ、はい」
先ほどまで笑っていたグスタフさんが真面目な表情に切り替わったので素直に頷いて離れる。俺が十分離れたのを確認したのか、グスタフさんは金床の上に置いてあった火挟みを左手で持つと、炉の中から赤熱化した鉄を取り出した。
そしてすぐに、金床の上に置いて火挟みで支えながら右手で握りしめた金槌を振るって鉄を打ち始める。
飛び散る火花を見て、確かにこれは下手に近くにいたら危ないな。と、納得しながらも、真剣な表情で鉄に向かうグスタフさんの横顔を見て思わず惚けてしまう。
ある程度打つと、再び鉄を炉に入れて加熱。そしてある程度すると、また取り出して金槌で打つ。それの繰り返しだが、次第に変わっていく鉄の形、飛び散る火花、カァンカァンと響く音。そして、汗を垂らしながらも一切金属から視線を逸らさないグスタフさんが格好良くて、時間が経つのも忘れて俺は夢中で見続けた。男が鍛冶に憧れる理由をはっきりと体感した。これは、カッコいい。
「よしっ!と、まぁ。こんな感じだ。まだセイルは鉄を打つには小せぇが、やり方ぐれぇは覚えられただろ」
「はい、ありがとうございました!」
見学を終える頃には既に空は茜色に染まっており、玄関でグスタフさんへ頭を下げた。
「はんっ。まだセイルが鉄を打つには早え。体が出来てねぇから打つどころか鉄すら持てねぇ。そう思ってたから俺は無視してたんだ」
「うっ……!」
「……でも、あんなにしつこくされれば、流石にセイルがどれぐれぇ本気か分かる。だから先ずは兎に角体を作れ。鉄鍛える前に体を鍛えろ。よく食べてよく眠って、畑仕事をやっとけば、今のうちなら十分鍛えられる。取り敢えずそうだな……、一年経った位にまた確認する。その時駄目ならまた鍛えてからって感じだな」
「はいっ!」
「よし、良い返事だ」
そう言ってワシャワシャと豪快に頭を撫でられる。頭から感じるゴツゴツで硬い掌は、力が強くてぐわんぐわんと頭を揺らされてしまう。けれど、不思議と嫌な気分ではなかった。
「……っと、もう時間も遅えな。気をつけて帰れよ」
「……っはい!」
グスタフさんに見送られながら、俺は家に帰った。
その後の話だが、いつもより遅くなった為心配した母さんにめちゃめちゃ怒られてしまった。
―――――――――――――――――――――――
取り敢えず今回の連続投稿はここまでです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます