第4話 弟子入り志願
昨日、偶然会ったフィルマが酷い顔をしていたので少し話すと剣聖となったことで俺に引け目を感じていた事が分かった。
ので、気にして無いと伝えたが、それでも駄目だった為、立ち直らせる為に新しい夢が出来たと嘘を付いてしまった。
……大切であるはずの幼馴染を騙すことになってしまったが、これは仕方のないことなのだ。それに、実際に約束を果たすつもりだしきっかけが違うだけだ。うん。
と言うことで、この村で唯一の鍛冶師、グスタフさんの所へやって来た。グスタフさんはガスタフさん……神父さんの弟でもあるため、顔のパーツはそっくりなのだが、性格が神父さんとは真逆のせいか、親しみやすい神父さんとは違って近寄りがたい印象を受けるのだ。
そんなグスタフさんの家兼鍛冶場兼店舗へ到着すると、扉をノックする。
「すいませーん、グスタフさーん!用事があって来ましたー!」
暫く続けると、ドタドタと足音が聞こえてバンッ!と勢いよく扉が開く。
「うるせーぞ、クソガキ!一体何の用だ!」
ギロリと俺を見下ろすグスタフさんに、俺は怯まず笑顔で返事をする。
「弟子入りさせて下さい!」
「断る」
バタンとすぐに扉を閉められた。……くっ、こうなったら、三顧之礼作戦だ!
それからの俺は、家の仕事の手伝いをしながら毎日毎日グスタフさんの下へ行った。ノックしても扉が開くことはなかったので、扉の前で弟子入り懇願をする。
三顧之礼の三回を軽く越え、メモに記していた回数が十七日目になった日、いつも通り扉の前に立って叫んでいると、ガチャリとグスタフさん家の扉が開いた。
思いが通じたのかと喜色満面で弟子入り志願をしようと口を開きかけると、
「帰れ、クソガキ」
とだけ言われて扉が閉められてしまった。仕方ないので、退散した。
またそれからかなり経ち、メモによれば五十八日も通っているとなっていた。
そして五十九日目。弟子入りさせて欲しいといつも通り扉の前で懇願していると、ガチャリと扉が開き、グスタフさんがしかめっ面して立っていた。
「……坊主。なんで、お前は俺に弟子入したがるんだ?」
これまでと違った反応に、俺は気を引き締めて口を開く。
「約束の為です」
「約束だぁ?」
怪訝な顔を浮かべるグスタフさんに「はい」と頷く。少し考え込む素振りをした後グスタフさんが口を開いた。
「お前の幼馴染といやぁ、噂の剣聖か」
「はい。……その幼馴染と、フィルマと約束したんです。フィルマの武器を、防具を俺が作るって。伝説に残る様な物を、作るって!だから……っ!!」
「あーあー、分かったよ……」
後頭部をボリボリと掻きながら、話を遮るグスタフさん。俺の目をじっと見て、そして、はぁーっと深い溜息を吐くと、「……認めてやんよ」とだけ言って家の中へと戻っていく。
突然の展開について行けず、理由も分からず立っていると、グスタフさんが振り返る。
「早く入って来い、セイル」
「……っ!?俺の名前……っ!」
「剣聖の幼馴染に武器やら何やら作ってやんだろ?なら、時間がねぇ、厳しくやっぞ!」
「……はいっ!」
グスタフさんの言葉に食い気味に返事をする。自身の熱意が認められたことが嬉しくて堪らなくて、無性に叫びながら駆け回りたい衝動を堪えながら、グスタフさんの後を追って、駆け足で家の中へと入っていくのだった。
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