第4話 広場にて

「明日はいよいよ陛下だってよ」

「陛下かー」

「陛下にはぜひとも石を投げたい」

「私もー」

「不敬すぎて草」

「まあそうするのが礼儀というか」

「どんな礼儀だよ」

「おかげさまで滅亡しましたって感じ?」

「…………」

「…………」

「…………」


「明日が終わったらとうとうこの国ともおさらばかー」

「結局はアルカディア?」

「アルカディア」

「ゾンビに養ってもらいます」

「え?そういう感じなの?」

「そうだよ?」

「単純労働はゾンビの仕事。国民はゾンビの監督とか研究とかやってるんだってよ」

「ほえーめっちゃ楽じゃん」

「まあゾンビってのを受け入れられなきゃ出てくしかねえけどな」

「ゾンビが作った野菜かー」

「私は全然平気な自信あるよ」

「俺もだ」

「まあねー」


「ところで今日、広場にいたお嬢様達見た?」

「見た見た」

「あれでしょ?アリエル様とフェリス様」

「そうそう」

「めっちゃ陛下に喋りかけてたな」

「陛下泣いてたよね」

「うわー」

「うわー」

「でもまあボンクラ王子のせいで公爵家が処刑されてますし」

「陛下も冤罪って知ってて処刑させちゃったわけですし」

「あーね。王子の罪状が読み上げられた時びっくりしたわ」

「知ってたんかいってなったよね」

「フェリス様としては家族の敵討ちってやつなんだろうなあ」

「めちゃ不憫よね」


「そんでフェリス様の命だけでも救う代わりに宰相の息子の嫁になるのを了承したアリエル様」

「キモキモのキモだよね宰相」

「私としては宰相が一番のアレだわ」

「宰相の時みんなめっちゃ石投げてたよね」

「そりゃそうだろ」

「女達の罵声が半端なかった」

「あの時アリエル様いた?」

「いなかった」

「なんでもあの時点ではまだ暗殺の危険があったんだと」

「え?」

「なんで?」

「国を滅ぼしたのはアリエル様だっつって逆恨みしてる貴族だか神官がいたらしい」

「貴族って捕まってたんじゃないの?」

「逃げたやつもいたってことじゃね?」

「そいつ捕らえて殺しましたって掲示板に出てたじゃん」

「そうだっけ」

「一昨日くらいの話だね」

「字が読めない私、言われなきゃわからない」

「ごめんごめん、教えたと思ってた」

「許す。代わりに引越しの準備手伝え」

「まだ準備終わってないの?」

「油断してた」

「のんびりすぎて草」


「明日の陛下の罪状どうなってんだろね」

「全部知ってて黙ってた罪」

「事なかれ罪」

「パパ失格罪」

「国王失格罪」

「情けなさすぎて草」

「でも公爵家の処刑を決めたのは陛下じゃん」

「あーね」

「それは間違いなく死刑」

「でも火刑でしょ?」

「めっちゃ悪いやつしか火刑しなくない?」

「女神様プンプン罪」

「それだ」

「それだわ」

「結局のところそれだわな」


「女神様かー」

「ん?」

「なんなん?」

「いやー、改めて考えるとえげつないねって」

「あーね」

「王侯貴族皆殺しだもんね」

「そんなもんでしょ」

「まあね」

「でも俺らまで出てけってのはどうなん?」

「んーわからん」

「やりすぎ感はある」

「おっと不信心」

「女神様こいつです」

「やめろ」

「ごめんなさい」

「女神様ごめんなさい」

「王侯貴族だけ殺して俺らだけになったら」

「ん?」

「ん?」

「多分俺らの中から誰かがリーダーになる」

「ふむ」

「そうなるわね」

「そうなるまでに揉めるだろうし、我こそは元王族とかいうのも出てくるよね」

「ありそう」

「まあ揉めるのは間違いない」

「土地とか家畜とかそのままだったら現在の力関係がそのまま引き継がれることにもなる」

「あー」

「そういうことか」

「一旦叩き出して他の国の管理下ってことにするのはそういうことかと」

「リセットするにはね」

「それが一番平等かもね」

「俺らの財産だったんですが」

「滅亡ってそういうことだわな」

「だよなあ」

「悲しいっす」

「悲しいねえ」

「トップがバカだと国が滅ぶんよね」

「痛感してて草」

「んじゃまあ、飯食って寝ますか」

「そうしよう」

「そうしよう」


□■□■歴史書より□■□■


 国王エドワードの処刑は長い石打ちの後に火刑という凄惨なものとなった。

 火刑の火が燃え尽きた時、天から《天使の梯子エンジェルラダー》と呼ばれる光の筋が降りてきて数名の人物が空に引き上げられていくのを国民は見た。

 妖精姫アリエルを守り彼女を支えてきたわずかな者達が、生きたまま天界へ招かれていくのを目撃した民は、口々に女神や彼らを称え国王広場を後にした。

 そして動ける者が誰もいなくなった王国に神の火が降り注いで、動けない老人や病床に伏してその時を待っていた者を優しく塵に還したという。

 目撃した者がいないために詳細は不明だが、裁きの日の後に王国を訪れた者が見たのは骸すらない空っぽの都市だった。

 国同士の緩衝材となっていた王国がなくなり国境を接することになった大国ベラスケスとチェインは、一触即発の緊張感を持ちながらも王国の跡地を交流都市として人材を投入し独自の発展を期待することにした。

 アルカディアは我関せずという姿勢ながらゾンビによる巡回を行い国境を管理している。

 女神に見放された国が数百年の歴史に幕を閉じた最後の数年間の出来事は歌劇『妖精姫』として各国で上演され、女神信仰を大いに発展させたと歴史に記されている。


~終~

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