こられなかった理由。
第5話
将が、久しぶりの集まりに来られないといった。
当日の朝、俺の携帯にかかってきて、何だと思ったら熱が出たそうだ。
その時は、ああ仕方ないな、と思っていた。
しかし、こられない理由は違うところにあるんだな、と後から気付いた。
「オレ、彼女出来たんだ。生まれて初めてだぜ? すげぇだろ?」
久しぶりに再会した居酒屋で真は嬉しそうに言った。
酒も入っていたが、それだけではない、朱の色が顔を染める。
周りの奴らは一瞬、時が止まったが、すぐ真に絡んでいった。
俺はそれを楽しそうに眺めるが、内心は違うことを考えていた。
――ああ、だから将は今日は来なかったんだな――
何らかの形で先に真に彼女が出来たことを知ってしまったのだろう。
だから、熱が出たというのは大方仮病だな。
ビールをちびちび飲みながら枝豆をつまんだ。
ああ、そっか、そっか。
考えがどんどんまとまっていく。
将が、真のことを恋愛感情で好きなのは薄々感じていた。
だって、将が真に向ける眼差しは時々、熱を帯びたものになってたしな。
気付いたのは俺くらいだろう。
普通はそんな思考回路に辿り着かないのかもな。
なんで、そこに辿り着いたっていうと。
俺も真のことが好きだからだ。
誰も気付いてないだろうけど。
誰にも言うつもりないけど。
一生、想いを秘めたまま。
いつか、忘れてしまうかもしれない想い。
ただ、ただ、真を想うだけで、それでいいんだ。
「隆、隆」
ぽんぽん、と肩を叩かれ、ふと我に返る。
「具合悪いのか? 風邪はやってんのかなあ。将も熱だしちゃったし、お前も気を付けろよ」
真が心配そうに俺を覗き込む。
真のせいで、将も俺も具合が悪くなったんだよ、と心の中で吐き捨てながら、笑顔を作る。
「ああ、いや、ちょっと酔いが回ってきたらしいや。それより、今度彼女にあわせろよ?」
適当に話を振り、俺は平常心を保つ。
真は笑って、今度な、と言った。
いつもより夜が長く感じそうだなあと思いながら、俺は近くにいた店員にお冷やを頼んだ。
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