第8話:露出魔退治クラブ、解散の危機!?
## 第一章:突然の廃部通告
春の陽気が漂う3月下旬のある日、正義ハジメたち露出魔退治クラブのメンバーは、いつもの秘密基地(校舎裏の倉庫)で活動記録をまとめていた。
「すごいよ、僕たちの活動記録」ハジメは誇らしげに分厚いファイルをめくりながら言った。「レインボーマンから始まって、ピンクタイツ紳士たち、全裸監督、温泉の混浴おじさん軍団、パンツ解放同盟、筋肉おじさん、そしてサウナ侍まで…」
「本当に色々あったわね」ユイはタブレットに最新の記録を入力しながら微笑んだ。「最初は単純に『露出魔を退治する』だけだったけど、今では対話と協力で解決することも増えたわ」
「僕たちも成長したよね!」ケンジは元気よく頷いた。「最近は田中くんも手伝ってくれるようになったし、クラブとしても充実してる!」
新年度からの新入部員候補として、温泉旅行で一緒だった田中くんも時々活動に参加するようになっていた。今日は風邪で休みだったが、すっかりクラブに馴染んでいた。
「そうだな」ハジメは満足げに言った。「僕たちのおかげで、街も平和になった気がする」
突然、秘密基地のドアが開き、桐山先生が慌てた様子で入ってきた。
「先生、どうしました?」ハジメは桐山先生の表情を見て、すぐに何か重大なことが起きたと察した。
「ごめんなさい、突然なんだけど…」桐山先生は息を整えながら言った。「校長先生があなたたちに会いたがってるの。すぐに校長室に来てほしいって」
「校長先生が?」ケンジが不思議そうに首を傾げた。「なにか問題でも?」
「それが…」桐山先生は言葉を選ぶように少し間を置いた。「詳しいことは校長先生から直接聞いてほしいの。でも…覚悟しておいた方がいいかもしれない」
「覚悟…?」三人は顔を見合わせた。
急いで校長室に向かう途中、ハジメの頭には様々な可能性が浮かんでは消えた。新たな露出魔の出現?それとも今までの活動への評価?
校長室に着くと、校長先生は窓際に立ち、外を眺めていた。振り返った表情は、どこか厳しいものだった。
「露出魔退治クラブの諸君、座りなさい」
三人は緊張した面持ちで椅子に座った。桐山先生も横に立っていたが、表情は暗かった。
「君たちに伝えなければならないことがある」校長先生は真剣な表情で切り出した。「露出魔退治クラブは、今月末をもって廃部とする」
「えっ!?」
「なぜですか!?」
「どういうことですか!?」
三人は同時に声を上げた。
「理由は簡単だ」校長先生は静かに続けた。「教育委員会から指摘があった。『小学生が露出魔と戦うなど不適切である』と」
「でも、私たちは実際に戦ってるわけじゃありません!」ユイが必死に反論した。「不審者を見つけたら通報するだけで、直接対決はしていません!」
「それに、最近は対話と理解を通して解決することも多いです!」ハジメも熱く訴えた。「筋肉おじさんやサウナ侍との件は、みんなが納得できる形で解決できました!」
「わかっている」校長先生は少し柔らかい表情になった。「君たちの活動が実際にはとても建設的なものだということは、私も桐山先生も理解している。しかし…」
校長先生は机の上にある一枚の文書を指さした。
「これは保護者から教育委員会に寄せられた意見書だ。『子どもたちに不適切な活動をさせている』『露出魔という言葉自体が下品で教育上よくない』という批判が複数届いているんだ」
「そんな…」ケンジは肩を落とした。
「残念ながら、私立学校である以上、保護者や教育委員会の意見を無視するわけにはいかない」校長先生は厳しい現実を告げた。「だから…君たちのクラブは廃部とし、同様の活動はやめてもらうことになった」
「これまでの活動は無駄だったんですか?」ハジメは声を震わせながら尋ねた。
「いいえ、決してそうではないわ」桐山先生が優しく言った。「あなたたちは本当に多くの人を助け、問題を解決してきた。その成果は誰も否定できないわ」
「だったらなぜ…」ユイの目に涙が浮かんだ。
「大人の事情、ということだ」校長先生はため息をついた。「君たちを守るためでもある。もし何か事故でも起きれば、学校の責任は重大だ」
「でも…」ハジメは反論しようとしたが、言葉が続かなかった。
「廃部は決定事項だが」校長先生は少し表情を和らげた。「せめて、君たちの思いは聞かせてほしい。なぜこの活動が大切だと思うのか」
「時間をください」ハジメは真剣な表情で言った。「私たちの活動の意義を説明する機会をください。簡単に諦めるわけにはいきません」
校長先生は少し考え込んだ後、ゆっくりと頷いた。
「わかった。明日までに、君たちの考えをまとめてきなさい。ただし、廃部の決定は覆らないと思った方がいい」
「はい、わかりました」三人は力なく返事をした。
校長室を出た三人は、言葉もなく廊下を歩いた。春の陽射しが窓から差し込んでいるのに、彼らの心は暗雲に覆われていた。
「どうすればいいんだろう…」ケンジが呟いた。
「私たちの活動は間違ってなかったはず…」ユイも落胆した様子だった。
その時、ハジメが突然立ち止まった。彼の目には決意の光が宿っていた。
「諦めないぞ!」彼は強く言った。「僕たちの活動が本当にどれだけ意味のあるものだったか、証明してみせる!」
「でも、どうやって?」ケンジが尋ねた。
「これまでの活動記録を整理して、私たちの本当の役割を示すのよ」ユイが閃いたように言った。「単なる『退治』ではなく、どれだけの人を助け、問題を解決してきたかを」
「そうだ!それに...」ハジメは何かを思いついたように目を輝かせた。「証人も必要だ。僕たちの活動で助かった人、一緒に問題を解決した人の証言があれば…」
「橋本カラフルさん!」ケンジが思い出したように叫んだ。「レインボーマンだった人!」
「そう!最初の事件の主役だった彼が、今ではちゃんとした服飾デザイナーになってる」ハジメは興奮した。「彼の証言があれば、僕たちの活動がどれだけ意味のあるものか証明できるかも!」
「他にも、岡本先生、山田さん、佐藤さんにも協力してもらえるかも」ユイは希望を取り戻した様子だった。
「よし、早速行動しよう!」ハジメは拳を握った。「露出魔退治クラブの解散なんて、簡単には認められない!」
三人は急いで秘密基地に戻り、作戦会議を始めた。明日までに、彼らはクラブの存続をかけた最大の戦いに挑まなければならなかった。
## 第二章:活動記録と友情の証
放課後、三人は手分けして過去の活動で関わった人々に連絡を取り始めた。ユイはタブレットで活動記録を整理し、ケンジは電話で連絡を取り、ハジメは直接会いに行く役割を担った。
「よし、まずは橋本さんのデザイン工房に行ってみよう」ハジメは秘密基地を出る前に言った。「彼の証言が一番重要だからね」
「ハジメ、気をつけて」ユイが心配そうに言った。「あと、これ持って行って」
彼女は小さなレコーダーをハジメに渡した。
「証言を録音するの。書類だけじゃなく、生の声があった方が説得力があるから」
「さすがユイ、準備が完璧だな」ハジメは微笑んだ。
「僕は岡本先生、山田さん、佐藤さんに連絡してみるよ」ケンジが電話を手にしながら言った。「できれば明日、校長先生の前で証言してもらえるようお願いするよ」
「お願いね」ハジメは頷き、秘密基地を後にした。
西口商店街にある「橋本カラフルのデザイン工房」に向かう途中、ハジメの頭の中は様々な思いで一杯だった。レインボーマンとの最初の対決から始まり、これまでの数々の事件について考えていた。
最初は単純に「露出魔」を退治するという考えだったが、活動を続けるうちに「理解」と「対話」の大切さを学んだ。橋本さんも、岡本先生も、山田さんも、佐藤さんも、それぞれに自分の信念や思いがあった。彼らは決して悪人ではなく、ただ表現方法が社会と合わなかっただけなのだ。
西口商店街に着くと、橋本さんの工房はすぐに見つかった。カラフルな看板と、窓に飾られた独創的な衣装が目を引いた。
「こんにちは」ハジメは勇気を出して工房のドアを開けた。
中では、虹色の布地を使った作業をしている男性がいた。以前のレインボーマンとは思えないほど落ち着いた雰囲気だったが、その創造性は健在のようだった。
「あら、ハジメ君じゃないか!」橋本さんは顔を上げると、嬉しそうに笑顔を見せた。「どうしたの?今日は一人?」
「はい、ちょっと大事な相談があって…」ハジメは少し緊張した様子で言った。
「どうぞ、座って」橋本さんは奥のテーブルを指さした。「お茶でも飲む?」
「ありがとうございます」
テーブルに座り、ハジメは事情を説明し始めた。露出魔退治クラブが廃部の危機に瀕していること、その理由が「小学生が露出魔と戦うのは不適切」という判断によるものであることを話した。
「なるほど…」橋本さんは真剣な表情で聞いていた。「それで私に何ができるかな?」
「橋本さんの証言が欲しいんです」ハジメは真っ直ぐに橋本さんの目を見た。「僕たちがどうやって橋本さんを助けたのか、そして今、どうなっているのかを」
橋本さんは少し考え込み、それから優しく微笑んだ。
「いいよ、もちろん協力するよ。君たちのおかげで私は本当の自分を見つけることができたんだから」
そして、橋本さんは語り始めた。レインボーマンとして暴走していた過去、ハジメたちに諭されたこと、そして今では服飾デザイナーとして自分の創造性を健全な形で表現していることを。
「君たちがいなかったら、私はただの変な露出魔で終わっていたかもしれない」橋本さんは真摯に語った。「でも君たちは私を単純に否定するのではなく、『本当の自己表現とは何か』を考えさせてくれた。その結果、今の私がある」
ハジメはレコーダーに全てを録音しながら、感動して聞いていた。
「橋本さん、明日、校長先生の前でもこのお話をしていただけませんか?」ハジメは期待を込めて尋ねた。
「もちろん」橋本さんはにっこり笑った。「私の最新コレクションのサンプルも持っていくよ。『適切な自己表現』の具体例としてね」
「ありがとうございます!」ハジメは心から感謝した。
工房を後にしたハジメは、急いで秘密基地に戻った。そこではユイとケンジが待っていた。
「どうだった?」ケンジが期待に満ちた表情で尋ねた。
「大成功!」ハジメは笑顔で答えた。「橋本さん、全面協力してくれるって。明日も来てくれるよ」
「こっちも良い報告があるわ」ユイは嬉しそうに言った。「岡本先生も明日、時間を作ってくれるって。山田さんも放課後なら来られるそうよ」
「佐藤さんも仕事を調整して来てくれるって!」ケンジも興奮した様子で報告した。
「みんな協力してくれるんだね」ハジメは感激した。「これなら校長先生も、僕たちの活動の意義を理解してくれるかも…」
その時、秘密基地のドアが開き、桐山先生が入ってきた。
「みんな、頑張ってるわね」彼女は優しく微笑んだ。
「先生!」三人は驚いた様子で声を上げた。
「明日の準備、手伝わせてね」桐山先生は三人の横に座った。「私も露出魔退治クラブの顧問として、あなたたちの活動を守りたいの」
「桐山先生…」ハジメは感激した。
「それにね、私からもひとつサプライズがあるわ」桐山先生は少し意味深な笑みを浮かべた。「明日は、とっておきの『証人』も連れてくるから」
「誰ですか?」ケンジが好奇心いっぱいの表情で尋ねた。
「それは明日のお楽しみ」桐山先生はウィンクした。「でも、きっと力になってくれるわ」
その夜遅くまで、三人と桐山先生は翌日のプレゼンテーションの準備に取り組んだ。活動記録をまとめ、証言録音を整理し、これまでの成果を示す資料を作成した。
「よし、これで準備は整った」深夜になって、ハジメは満足げに言った。「明日は僕たちの活動の真価を示す日だ」
「うん、頑張ろう!」ケンジも元気よく頷いた。
「明日がんばれるように、早く寝なさい」桐山先生が優しく諭した。「心配しないで。あなたたちの活動には、本当の価値があるんだから」
三人は疲れた体を引きずりながらも、希望を胸に家路についた。明日は露出魔退治クラブの運命が決まる日。彼らは全力で自分たちの信念を貫くつもりだった。
## 第三章:証人たちの集結と隠された真実
翌日の放課後、校長室は前例のない光景を迎えていた。
部屋の中央には校長先生が座り、その周りを桐山先生と露出魔退治クラブの三人が囲んでいた。そして驚くべきことに、部屋の壁際には「証人」たちが勢揃いしていた。
橋本カラフルさん、岡本真一先生、山田剛さん、佐藤誠一さん、そして露出魔退治クラブに入りたがっていた田中くんまで。さらには温泉旅行で出会った「混浴の歴史を守る会」の元リーダー・高橋さんの姿もあった。
「これは…予想以上の人数だな」校長先生は少し圧倒された様子で言った。
「校長先生」ハジメが一歩前に出て、真剣な表情で話し始めた。「今日は私たち露出魔退治クラブの活動の意義について説明させてください」
「まずは活動記録をご覧ください」ユイがタブレットを操作すると、部屋の壁にプロジェクターで映像が映し出された。
「私たちが最初に活動を始めたのは、昨年の夏です」ハジメが説明を続けた。「最初の事件は『レインボーマン』と名乗る人物が公園で子どもたちを驚かせていた時でした」
そして、これまでの活動を時系列順に説明していった。レインボーマン、ピンクタイツ紳士たち、全裸監督、温泉の混浴おじさん軍団、パンツ解放同盟、筋肉おじさん、そしてサウナ侍まで。それぞれの事件の概要と、どのように解決したかを詳細に説明した。
「私たちの活動は、単に『退治する』だけではありませんでした」ハジメは熱を込めて語った。「最初はそうでしたが、活動を続けるうちに、『相手を理解し、対話を通じて解決する』ことの大切さを学びました」
「その証拠に」ケンジが加えた。「最近の筋肉おじさんやサウナ侍の件では、対立ではなく協力によって、みんなが納得できる解決策を見つけることができました」
「そして何より」ユイが力強く言った。「私たちの活動によって、多くの人が自分の表現方法を見直し、社会と調和した形で自己実現できるようになったんです」
校長先生は黙って聞いていたが、その表情には少しずつ理解の色が浮かんでいた。
「では、証人の方々からもお話を伺いましょう」桐山先生が言った。
最初に立ち上がったのは橋本カラフルさんだった。
「私は以前、『レインボーマン』として公園で騒動を起こしました」彼は率直に認めた。「自分の芸術が認められず、極端な行動に走っていたんです。でも、ハジメくんたちは私を単に追い払うのではなく、『本当の自己表現とは何か』を考えさせてくれました」
橋本さんは自分がデザインした最新の服を広げて見せた。鮮やかな色彩だが、決して派手すぎず、芸術性と実用性を兼ね備えたデザインだった。
「今では私は服飾デザイナーとして、健全な形で自分の創造性を表現しています。彼らがいなかったら、今の私はなかったでしょう」
次に立ったのは岡本先生だった。
「私は世界的なバレエダンサーであり、美術教師です」彼は静かに語り始めた。「『全裸監督』と呼ばれた事件では、芸術教育に対する熱意が行き過ぎそうになりました。しかし、ハジメくんたちのおかげで、子どもたちに適切な形で芸術の素晴らしさを伝える方法に気づくことができました」
続いて山田さん、佐藤さん、高橋さんも、それぞれの経験と、露出魔退治クラブとの関わりについて語った。彼らは皆、自分の行動を反省し、社会と調和した形で自分の情熱を表現できるようになったと証言した。
「校長先生」山田さんが真剣な表情で言った。「彼らの活動は『退治』という名前ですが、実際は『橋渡し』なんです。社会のルールと個人の表現欲求の間に立って、両方を尊重した解決策を見つける。それが彼らの本当の役割なんです」
校長先生は深く考え込むように、しばらく沈黙していた。
「わかった」彼はようやく口を開いた。「君たちの活動は、私が思っていたよりもずっと建設的で教育的なものだったようだ」
三人の顔に希望の光が戻った。
「しかし」校長先生は続けた。「それでも『露出魔退治クラブ』という名前は教育委員会や保護者に誤解を与えてしまう。この名前では、クラブの存続は難しい」
「それなら、名前を変えればいいじゃないですか!」ケンジが突然言った。
「名前を…?」ハジメは少し驚いた様子だった。
「そうね」ユイも頷いた。「私たちの本当の活動は『退治』ではなく、『橋渡し』なんだから、それにふさわしい名前に変えればいいわ」
「それは良い案かもしれないな」校長先生も少し表情が和らいだ。「では、新しい名前は何にするつもりだ?」
三人は顔を見合わせた。
「『社会調和クラブ』はどうかしら?」ユイが提案した。
「いや、もっとわかりやすい方がいいよ」ケンジが首を振った。「『問題解決クラブ』とか」
「でも、それだと何の問題を解決するのかわからないよね…」ハジメが考え込んだ。
その時、静かに後ろのドアが開き、一人の男性が入ってきた。スタイリッシュなスーツを着た30代後半の男性だった。
「遅れてすみません」男性は丁寧に頭を下げた。
「あ、来てくれたのね」桐山先生は微笑んだ。「みなさん、こちらは私の古い友人で、今は教育委員会の委員をしている高岡さんです」
「教育委員会の!?」校長先生は驚いた様子で立ち上がった。
「はい」高岡さんは微笑んで校長先生に握手を求めた。「教育委員の高岡です。実は、露出魔退治クラブの廃部の件、少し話を聞いていたんです」
「あの…高岡さんが、桐山先生の言っていた『とっておきの証人』なんですか?」ハジメが恐る恐る尋ねた。
「そうよ」桐山先生はニッコリ笑った。「高岡さんは昔、私の同僚だったの。そして実は…」
「僕も彼らに助けられた一人なんです」高岡さんが静かに言った。
「えっ?」三人は驚いた表情になった。
「20年前、私は若くて未熟な警察官でした」高岡さんは思い出すように語り始めた。「当時、この街で起きていた『覗き事件』の捜査で、桐山さんと一緒に働いていたんです。しかし、あるとき私は…」
彼は少し恥ずかしそうに話を続けた。
「犯人グループに警戒されてしまい、危険な目に遭いました。動けなくなった私を、桐山さんが救出してくれたんです。そのとき桐山さんが言った言葉を今でも覚えています。『露出や覗きの問題は、単に取り締まるだけでは解決しない。なぜそうするのか、理解し、適切な形で解決策を見つけることが大切だ』と」
「桐山先生…」ハジメは感動した様子で桐山先生を見つめた。
「その経験があったからこそ、私は警察を辞めた後、教育の道に進みました」高岡さんは続けた。「そして今、教育委員として、子どもたちの健全な自己表現と社会のルールの調和という課題に取り組んでいるんです」
「実は」高岡さんは校長先生の方を向いた。「教育委員会に寄せられた意見書は確かにありますが、それは一部の保護者からのものです。一方で、このクラブの活動を評価する声も多いんです」
校長先生は驚いた様子だった。
「それに」高岡さんは三人に微笑みかけた。「彼らの活動記録を見ると、まさに桐山さんが私に教えてくれた『理解と対話による解決』を実践していることがわかります。これは非常に教育的な活動だと思います」
「つまり…」校長先生は目を見開いた。
「はい」高岡さんはきっぱりと言った。「教育委員会としては、クラブの名前を変更することを条件に、活動の継続を認めたいと思います」
「本当ですか!?」三人は飛び上がりそうになった。
「ただし」高岡さんは少し厳しい表情になった。「活動内容は桐山先生の監督のもとで行い、危険な状況には絶対に近づかないこと。そして何より、相手を理解し、対話を通じて解決するという姿勢を守ることが条件です」
「もちろんです!」ハジメは力強く頷いた。「私たちはずっとそうやってきました。これからもそうします!」
校長先生はしばらく考え込んでいたが、やがてゆっくりと頷いた。
「わかった。名前を変更することを条件に、クラブの存続を認めよう」
「やったー!」三人は喜びの声を上げた。
「さて、それで新しい名前は何にするんだい?」校長先生が尋ねた。
部屋にいた全員が考え込む中、突然、橋本さんが手を上げた。
「提案があります。『表現調和クラブ』はどうでしょう?自己表現と社会の調和を目指す、というコンセプトで」
「『表現調和クラブ』…」ハジメはその名前を口にしてみた。「良いですね!」
「私も賛成!」ユイも笑顔で言った。
「僕も!」ケンジも元気よく頷いた。
「それでは」校長先生は微笑んだ。「今日から、露出魔退治クラブは『表現調和クラブ』として新たなスタートを切ることになりました。引き続き、桐山先生の指導のもと、建設的な活動を期待しています」
「ありがとうございます!」三人は深々と頭を下げた。
クラブの存続が決まり、部屋にいた全員から拍手が起こった。橋本さん、岡本先生、山田さん、佐藤さん、そして高橋さんまで、皆が喜びを分かち合った。
「よかったな」高岡さんが桐山先生に小声で言った。「君の教え子たちは、私たちが目指していたことを見事に実践しているよ」
「ええ」桐山先生は満足げに微笑んだ。「彼らは私の誇りよ」
こうして、露出魔退治クラブは「表現調和クラブ」として新たな一歩を踏み出すことになった。名前は変わっても、その精神は変わらない。これからも彼らは、理解と対話を通して、様々な問題を解決していくだろう。
## エピローグ:桐山先生の過去と新たな出発
春休みの最終日、桐山先生の自宅でささやかなパーティーが開かれていた。「表現調和クラブ」の発足を祝い、ハジメ、ユイ、ケンジ、そして新メンバーの田中くんが招かれていた。
「乾杯!」桐山先生がオレンジジュースの入ったグラスを掲げた。「表現調和クラブの前途に幸あれ!」
「乾杯!」四人の子どもたちも嬉しそうにグラスを合わせた。
「先生のおかげです」ハジメは感謝の気持ちを込めて言った。「教育委員の高岡さんを呼んでくれなかったら、クラブは存続できなかったかもしれません」
「いいえ、あなたたちの活動の実績が認められたのよ」桐山先生は優しく微笑んだ。「私は少しお手伝いしただけ」
「それにしても」ユイが不思議そうに尋ねた。「高岡さんって、先生の同僚だったんですか?先生が警察官だった時の」
「ええ」桐山先生は少し思い出深そうに頷いた。「彼は私の後輩で、一緒に『覗き事件』の捜査をしていたのよ」
「それで、本当に先生が救出したんですか?」ケンジが興味津々で聞いた。
「まあ、少し大げさに言ってくれたわね」桐山先生は照れくさそうに言った。「でも、確かに私は当時から『理解と対話』の重要性を説いていたわ。単に取り締まるだけでは根本的な解決にならないって」
「桐山先生、すごい…」田中くんは尊敬の眼差しで見つめた。
「そういえば」ハジメが思い出したように言った。「先生、温泉旅行の時に『パンツレスラー』って呼ばれていたって言ってましたよね?あれって一体…」
「あら」桐山先生は少し困ったように笑った。「あれは冗談よ。でも…」
彼女は少し話し声を落とした。
「警察時代、私は特殊な護身術を開発していたの。相手の死角から素早く動いて、不意を突く技術。それを同僚たちが冗談で『パンツレスラー技法』と呼んでいたのよ」
「へえー!」四人は驚いた表情になった。
「そんな先生が、僕たちの顧問でよかった」ハジメは心から言った。
「私もよ」桐山先生は優しく頷いた。「あなたたちは私の誇りだわ」
「ねえ、新学期からの活動計画、考えておいたんだ」ケンジが急に話題を変えた。「まずは校舎の裏の『幽霊』の正体を突き止めよう!」
「そうね」ユイも頷いた。「あれは明らかに人為的なものよ。シーツを被って、わざと目撃されるようにしているみたいだから」
「表現調和クラブ、最初の任務だな!」ハジメも目を輝かせた。
「僕も手伝います!」田中くんも元気よく言った。
「そうね」桐山先生はクスリと笑った。「でも、危険には近づかないこと。そして何より、相手を理解し、対話することを忘れないでね」
「はい!」四人は元気よく返事をした。
桐山先生の家の窓から見える夕焼けは、まるで新しい出発を祝福しているかのように美しく輝いていた。露出魔退治クラブは「表現調和クラブ」として生まれ変わり、これからも様々な問題に立ち向かっていく。そして彼らは、理解と対話を通じて、より良い社会を作り出していくだろう。
新学期は、新たな冒険の始まりだ。
**――次回予告――**
「校舎に出没する白い影の正体は!?」
「幽霊のフリして露出する奇妙な人物!?」
「新体制『表現調和クラブ』、初めての事件に挑む!」
新メンバー・田中くんも加わり、パワーアップした表現調和クラブ!白いシーツの下に隠された驚きの真実とは!?
次回「白い幽霊はシーツの下で何をする?」お楽しみに!
『露出魔退治クラブ 〜小学生たちの正義が変態を斬る〜』 セクストゥス・クサリウス・フェリクス @creliadragon
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