第7話:サウナ侍、街に立つ!
## 第一章:蒸気に包まれた謎の集団
「ぁぁ~、ととのった~!」
平和だった木曜日の放課後、駅前広場から奇妙な掛け声が聞こえてきた。数人の男性たちが、汗でびっしょりの体にローションを塗りたくり、頭にタオルを巻いたままの姿で駅前を駆け回っていた。
「何あれ!?」ケンジが目を丸くして指さした。
ハジメ、ユイ、ケンジの三人は学校帰りに文房具店に寄るため、駅前を通りかかったところだった。
「あれは…」ユイがタブレットを取り出して急いで調べ始めた。「サウナーと呼ばれる人たちね。サウナに入った後の『整い』を表現しているみたい」
「整い?」ハジメは首を傾げた。
「サウナに入って、水風呂に入って、外気浴をするサイクルを繰り返すと、心身が調和した特別な状態になるらしいわ。それを『ととのう』って言うの」ユイが説明した。
「へえ、そんな言葉があるんだ」ケンジは感心した様子だった。
「でも、なんであんな公共の場で半裸で走り回ってるの?」ハジメが困惑した表情で尋ねた。
その時、駅前の小さな公園の一角に、小さなテントのようなものが設置されているのが見えた。そのテントからは蒸気が立ち上っており、「どこでもサウナ」と書かれた旗が立っていた。
「あれが噂の移動式サウナね」ユイが指さした。「桐山先生が言ってた『どこでもサウナ』を実践する集団だわ」
「公園にサウナ!?」ハジメは驚いた表情になった。「それって許可取ってるのかな?」
「調べてみましょう」ユイはタブレットを操作し始めた。
三人がテントに近づくと、その前には看板が立てられていた。
『サウナ侍 presents どこでもサウナ体験会』
『料金:500円/15分』
『サウナの素晴らしさを広めるプロジェクト』
「商売してるじゃん!」ケンジが驚いた声を上げた。
そこへ、先ほど駆け回っていた男性たちが戻ってきた。彼らはみな「サウナ侍」と書かれた法被を着ていたが、胸元は大きく開かれており、汗で濡れた体が見えていた。
「いらっしゃい、若い衆!」一人の男性が声をかけてきた。「サウナ体験してみないか?今なら学生割引で300円だぞ!」
「あの…これって許可取ってるんですか?」ハジメが勇気を出して尋ねた。
「許可?」男性は少し困った表情になった。「まあ、特に禁止されてないからいいんじゃないかな?サウナは健康にいいんだぞ!」
「でも、公共の場所でテント張って商売するのは…」ユイが言いかけると、別の男性が割り込んできた。
「おっと、君たちは露出魔退治クラブの子どもたちかい?」
三人は驚いて顔を見合わせた。
「どうして知ってるんですか?」ハジメが警戒した表情で尋ねた。
「この街で君たちを知らない人はいないさ」男性は笑った。「僕は佐藤といって、サウナ侍のリーダーだ。心配しないで、我々は露出魔じゃないよ。ただサウナの素晴らしさを広めたいだけなんだ」
「でも、あんな姿で街中を走り回るのは…」ハジメが言うと、佐藤さんは熱心に説明し始めた。
「あれは『ととのい』を最大化するための儀式なんだ!サウナの後はローションで肌を保湿し、適度な運動をすることで血行が良くなるんだよ。もちろん、過度な露出にならないよう配慮はしてるさ」
三人は半信半疑の表情だった。
「それに、我々は『どこでもサウナ』を広めることで、忙しい現代人にリフレッシュの機会を提供しているんだ」佐藤さんは誇らしげに続けた。「サウナは心と体の浄化装置。もっと多くの人に体験してほしいんだよ」
「でも、公共の場所で…」ユイが再び言いかけると、突然、警笛の音が聞こえてきた。
駅前広場に一台のパトカーが到着し、二人の警官が降りてきた。
「これは…まずいな」佐藤さんは少し焦った様子で言った。
「あなたたちですか、無許可で公共の場所にテントを設置しているのは」一人の警官が尋ねた。
「いえ、これは…えっと…健康啓発イベントです」佐藤さんは言い訳を始めた。
「無許可での営業行為は禁止されています」警官は厳しい表情で言った。「それに、半裸で公共の場を走り回るのも公序良俗に反します」
「でも、我々はただサウナの素晴らしさを…」佐藤さんが弁解しようとしたが、警官は遮った。
「テントを撤去して、着替えてください。詳しい事情は署でお聞きします」
サウナ侍たちは渋々テントの撤去を始めた。
三人はその様子を見ていたが、ハジメはどこか複雑な表情をしていた。
「ハジメ、どうしたの?」ユイが心配そうに尋ねた。
「なんか…彼らは本当に悪いことをしようとしてたわけじゃないみたいだな」ハジメはつぶやいた。「サウナの良さを広めたいという気持ちは理解できるけど…」
「でも、方法が間違ってるよね」ケンジが言った。「公共の場所を勝手に使って、半裸で走り回るなんて」
「そうね」ユイも頷いた。「良い意図があっても、社会のルールを無視していいわけじゃないわ」
警官たちがサウナ侍を連れて行った後、三人は予定通り文房具店に向かったが、ハジメの心には引っかかるものが残っていた。
翌日の放課後、三人は校長室に呼ばれた。
「露出魔退治クラブの諸君」校長先生は真剣な表情で言った。「昨日の『サウナ侍』の件だが、警察から連絡があった」
「どんな連絡ですか?」ハジメが尋ねた。
「彼らは書類送検されたものの、実際には重大な犯罪ではないので釈放されたそうだ」校長先生は説明した。「しかし、彼らは『サウナの普及活動は続ける』と主張しているらしい」
「また同じことをするつもりなんですか?」ケンジが驚いた様子で言った。
「それが心配なんだ」校長先生は頭を抱えた。「警察も常に監視するわけにはいかないし…」
「私たちに何かできることはありますか?」ハジメが真剣に尋ねた。
「実は…」校長先生は少し言葉を選びながら続けた。「彼らのリーダーである佐藤さんが、君たちと話し合いたいと言っているんだ」
「僕たちと?」ハジメは驚いた。
「ああ。彼らも『露出行為』で通報されるのは本意ではないらしい。何か妥協点を見つけられないかと考えているようだ」
「なるほど…」ユイは考え込むように言った。「筋肉おじさんの時みたいに、話し合いで解決できるかもしれませんね」
「そうだね」ハジメも頷いた。「彼らの言い分もちゃんと聞いてみたい」
校長先生は少し安堵した表情を見せた。
「彼らは今日の夕方、カフェ『サンシャイン』で待っているそうだ。桐山先生も同席するとのことだ」
「わかりました!行ってみます」ハジメは決意を新たにした。
こうして三人は、謎のサウナ集団「サウナ侍」との会談に向かうことになった。果たして、彼らの本当の目的とは何なのか?そして、公共の場でのサウナ活動と社会のルールは両立できるのだろうか?
## 第二章:湯気の向こうの真実
夕方、カフェ「サンシャイン」に三人は緊張した面持ちで入った。店内の奥のテーブルでは、すでに桐山先生とサウナ侍のリーダー・佐藤さんが待っていた。今日の佐藤さんは、普通のスーツ姿だった。
「やあ、来てくれたか」佐藤さんは三人に笑顔で手を振った。
「こんにちは」ハジメたちはテーブルに着席した。
「まずは自己紹介からさせてください」佐藤さんは丁寧に言った。「私は佐藤誠一、38歳。本職はIT企業のプログラマーです。そして『サウナ侍』の代表をしています」
「サウナ侍って、どういう団体なんですか?」ハジメが率直に尋ねた。
「我々は、サウナ文化の素晴らしさを広めるために活動している団体です」佐藤さんは熱心に説明し始めた。「最近日本でもサウナブームが起きていますが、まだまだ『サウナ=おじさんの趣味』というイメージが強い。もっと若い人や女性にも、サウナの素晴らしさを知ってほしいんです」
「それはわかります」ユイが言った。「でも、なぜ公共の場所にサウナテントを設置したんですか?それも許可なく」
佐藤さんは少し恥ずかしそうに頭をかいた。
「それが…最初は正規のルートでやろうとしたんですよ。市に申請を出して、公園でのサウナイベント開催許可を求めたんです。でも、『前例がない』という理由で許可が下りなかった」
「だからといって、無許可でやっていいわけではありませんよね」桐山先生が静かに指摘した。
「おっしゃる通りです」佐藤さんは素直に認めた。「でも、我々には使命感があったんです。現代人はストレスを抱えすぎている。サウナでリラックスする文化を広めれば、多くの人が救われると信じていたんです」
「そこまでの熱意はすごいと思います」ハジメは正直に言った。「でも、半裸で街を走り回るのはどうなんですか?」
佐藤さんは少し困った表情になった。
「あれは…少し行き過ぎていました。サウナ後の『ととのい』を最大化するためには外気浴が重要なんですが、公共の場での実践方法については、もっと配慮すべきでした」
「そうですね」桐山先生も頷いた。「意図は理解できます。サウナの後の爽快感を体験してもらいたいという気持ちは。でも、方法を間違えると、結局は迷惑行為になってしまいます」
「じゃあ、これからはどうするつもりですか?」ケンジが尋ねた。
佐藤さんは真剣な表情になった。
「正直なところ…まだ諦めていません。サウナの素晴らしさを広める活動は続けたい。でも、社会のルールを守りながら、どうすれば良いのか悩んでいるんです」
「それで私たちに会いたいと?」ユイが不思議そうに尋ねた。
「そう」佐藤さんは熱心に言った。「あなたたちは『筋肉おじさん』の件で、素晴らしい解決策を見つけたと聞きました。公共の場での筋トレと社会のルールを両立させる方法を。我々も同じように、サウナ文化と社会のルールを両立させる方法を見つけたいんです」
三人は顔を見合わせた。彼らの評判は思った以上に広がっていたようだ。
「なるほど…」ハジメは考え込んだ。「確かに、山田さんの場合は、特殊ウェアの開発や、活動時間と場所の固定など、いくつかの工夫で解決できました」
「サウナの場合はもっと難しいかもしれないわね」ユイが指摘した。「だって、サウナは基本的に熱い空間だから、服を着るのは難しいし…」
「それに、公共の場に常設するのも現実的じゃないですよね」ケンジも言った。
佐藤さんはうなだれかけたが、すぐに顔を上げた。
「でも、何か方法はあるはずです!」彼は熱意を込めて言った。「サウナの良さを伝えるための、社会に受け入れられる方法が…」
ハジメはしばらく考え込んでいたが、突然顔を上げた。
「佐藤さん、そもそもなぜサウナにそこまでこだわるんですか?」
佐藤さんは少し驚いたような表情になり、そして静かに語り始めた。
「三年前、私は過労で倒れました。プログラマーとして日々締め切りに追われ、ストレスで身も心もボロボロでした」
彼は少し遠い目をして続けた。
「医者からは『このままでは危険だ』と警告されたけど、仕事は辞められない。そんな時、友人に誘われて初めてサウナに行ったんです。そこで『ととのい』を経験して…人生が変わりました」
「人生が変わった?」ケンジが興味深そうに尋ねた。
「ええ」佐藤さんは熱っぽく語った。「サウナに入り、水風呂に浸かり、外気浴をする。この単純なサイクルを繰り返すうちに、頭の中が整理されていくんです。仕事の解決策が浮かんだり、人間関係の悩みが解消されたり…」
「なるほど…」ユイも興味を示した。
「サウナは私を救ってくれました」佐藤さんは真剣に言った。「今ではすっかり健康になり、仕事の効率も上がりました。だから、同じように現代社会に疲れている人たちに、サウナの素晴らしさを知ってほしいんです」
「佐藤さんの気持ちはわかりました」ハジメはしっかりと頷いた。「でも、やっぱり方法を考え直す必要がありますね」
「そうですね…」佐藤さんも素直に認めた。
「あの、一つ提案があります」ユイが突然言った。彼女はタブレットを取り出し、何かをスケッチし始めた。「私、『モバイルお着替えカプセル』というものを開発中なんです」
「モバイルお着替えカプセル?」佐藤さんは興味深そうに身を乗り出した。
「はい」ユイは熱心に説明した。「これは折りたたみ式の簡易更衣室で、必要な時だけ展開できるんです。サウナ後の着替えスペースとして利用できるかもしれません」
「それは素晴らしいアイデアですね!」佐藤さんは目を輝かせた。
「それに」ケンジも加わった。「許可なく公園に設置するんじゃなくて、イベントとして正式に申請してみてはどうですか?例えば、健康フェスティバルとか」
「イベント…」佐藤さんは考え込んだ。「確かに、一時的なイベントなら許可が出る可能性が高いかもしれませんね」
「あとは、サウナ後の『ととのい』の表現方法も考え直す必要があるね」ハジメが言った。「公共の場で半裸で走り回るんじゃなくて、もっと…えっと…」
「適切な服装での屋外ヨガとか?」桐山先生が提案した。「リラクゼーション効果を得つつ、社会的にも受け入れられる方法として」
「それは良いアイデアですね!」佐藤さんは興奮した様子だった。「ヨガならサウナの効果を高めつつ、公共の場でも問題ないですね」
話し合いは活発に続き、少しずつ具体的なアイデアが形になっていった。
「まとめると」ユイがタブレットにメモを取りながら言った。「一時的なイベントとして正式に申請し、モバイルお着替えカプセルで着替えのプライバシーを確保し、サウナ後のアクティビティはヨガや適切な服装でのストレッチに変更する…ということですね」
「それなら、社会のルールを守りながら、サウナの魅力を伝えることができそうですね」ハジメも満足そうに言った。
「本当にありがとう」佐藤さんは深々と頭を下げた。「子どもたちに教えられるとは思いませんでした」
「私たちも勉強になりました」ハジメは微笑んだ。「サウナの良さを知れたし、社会のルールとの折り合いのつけ方について考えることができました」
「それじゃあ」桐山先生が立ち上がった。「早速、市の文化振興課に相談してみましょう。私からも少し話を通しておきます」
「ありがとうございます!」佐藤さんは感激した様子だった。
こうして、サウナ侍と露出魔退治クラブの協力関係が始まった。対立ではなく理解と協力によって、問題を解決する道が見えてきたのだ。
## 第三章:蒸気と汗の新たな形
それから二週間後の日曜日、中央公園では「健康&リラクゼーションフェア」が開催されていた。サウナ侍たちは正式な許可を得て、期間限定の「サウナ体験ブース」を出展していた。
「わあ、思った以上に人が集まってるね!」ケンジが驚いた様子で言った。
確かに、サウナ体験ブースの前には長い列ができていた。老若男女、様々な人たちがサウナ体験に興味を示していたのだ。
「ハジメ隊長!」ブースの前から佐藤さんが手を振った。今日の彼は「サウナ侍」と書かれたTシャツを着ていたが、過度な露出はなく、清潔感のある姿だった。
「佐藤さん、大盛況ですね!」ハジメは嬉しそうに言った。
「ええ、予想以上です!」佐藤さんは興奮した様子だった。「ユイさんのモバイルお着替えカプセルも大活躍ですよ!」
三人がブースに近づくと、公園の一角に設置された小さなサウナテントと、その横に数台設置されたドーム型のカプセルが見えた。カプセルは半透明で、中の人影はぼんやりとしか見えないようになっていた。
「これが私のモバイルお着替えカプセル!」ユイは誇らしげに言った。「軽量で折りたためるのに、プライバシーはしっかり守れるようになってるの」
「素晴らしいですね!」佐藤さんは心から感心した様子だった。「おかげでサウナ後の着替えも問題なくできています」
サウナを出た人々は、カプセル内で着替えてから、公園の芝生エリアに移動していた。そこでは別のサウナ侍メンバーがリードする「サウナヨガ」が行われていた。参加者たちは適切な運動着を着用し、穏やかな動きでリラクゼーションを深めていた。
「これなら『ととのい』も社会的に受け入れられる形で体験できますね」ハジメは満足そうに言った。
「本当にその通りです」佐藤さんは頷いた。「サウナの本質は『心と体の浄化』なんです。別に半裸で走り回ることが目的ではなかったんですね」
「自分たちの活動の本質を見直すことって大事ですよね」ユイも感心した様子で言った。
「我々も反省しました」佐藤さんは真摯に言った。「熱意があるあまり、社会のルールを軽視してしまっていた。でも、ルールを守りながらも、創意工夫で目的は達成できることを学びました」
その時、桐山先生が近づいてきた。
「みんな、良い笑顔ね」彼女は微笑んだ。「フェア、大成功みたいね」
「桐山先生!」ハジメたちは嬉しそうに声をかけた。
「桐山先生のおかげです」佐藤さんは深々と頭を下げた。「市の文化振興課との交渉も手伝っていただいて…」
「いいえ、私は少し助言しただけよ」桐山先生は優しく言った。「実際に動いたのはあなたたちです」
「先生、サウナ体験してみませんか?」ケンジが突然提案した。「僕も興味あるんです」
「そうね…」桐山先生は少し考え込んだ。「実は私、昔サウナによく行ってたのよ。警察官時代のストレス解消に」
「そうだったんですか!?」三人は驚いた表情になった。
「ええ、だからサウナの良さはよくわかるわ」桐山先生は微笑んだ。「じゃあ、せっかくだから体験してみましょうか。ケンジくんも一緒にどう?」
「はい!」ケンジは目を輝かせた。
「僕も行ってみようかな」ハジメも興味を示した。
「私は遠慮しておくわ」ユイはカプセルの方を指さした。「こちらの改良点をチェックしたいから」
こうして、桐山先生、ハジメ、ケンジは佐藤さんの案内でサウナ体験をすることになった。
サウナテント内は、本格的なサウナと同じように熱く、水分が一気に体から出ていくのを感じた。
「うわ、暑い!」ケンジは汗を拭いながら言った。
「これがサウナの良さだよ」桐山先生は慣れた様子で説明した。「体の毒素を汗と一緒に出し切るの」
「深呼吸して、リラックスするんだ」佐藤さんも優しく指導した。「体の芯から温まるのを感じて」
サウナを出た後は、用意された水風呂に浸かった。
「うわっ!冷たい!」ハジメは思わず声を上げた。
「この温度差が重要なんだよ」佐藤さんは笑いながら言った。「血行が良くなって、体がリセットされる感覚」
水風呂の後は、ユイが開発したモバイルお着替えカプセルで着替え、芝生エリアでのヨガに参加した。
「深く呼吸して…」ヨガを指導するサウナ侍のメンバーが穏やかな声で言った。「心と体のバランスを感じて…」
「なんだか、すごく気持ちいいね」ハジメは小声でつぶやいた。
「体が軽くなった気がする」ケンジも感心した様子だった。
一連の体験を終えた三人は、リフレッシュした表情で佐藤さんのもとに戻った。
「どうでしたか?」佐藤さんは期待に満ちた表情で尋ねた。
「素晴らしかったです」ハジメは正直に答えた。「確かに体も心もスッキリした感じがします」
「これが『ととのい』ですね」ケンジも満足そうに言った。
「なるほど」桐山先生も穏やかに微笑んだ。「これなら、多くの人にサウナの良さを伝えられるわね」
「本当にありがとうございます」佐藤さんは感謝の気持ちを込めて言った。「おかげで私たちの活動が正しい方向に進みました」
その時、ユイが駆けてきた。
「みんな!嬉しいニュースよ!」彼女は興奮した様子で言った。「市の担当者が、このイベントの成功を見て、常設の『公園サウナ』の検討を始めるって!もちろん、ちゃんとした施設としてね」
「本当ですか!?」佐藤さんは目を輝かせた。
「ええ、このフェアの反響が予想以上に良くて、『市民の健康増進に役立つ』と評価されたみたい」ユイは嬉しそうに説明した。
「やった!」佐藤さんは思わず拳を上げた。「これで私たちの夢が…」
彼は少し言葉に詰まり、目に涙が浮かんだ。
「本当にありがとう、露出魔退治クラブの皆さん。あなたたちがいなかったら、私たちはただの迷惑集団で終わっていたかもしれない」
「いいえ、私たちも学ぶことが多かったです」ハジメは真摯に言った。「サウナの良さも知れたし、何より『対立』ではなく『協力』で解決する大切さを学びました」
「そうね」桐山先生も頷いた。「自分の信念を持ちながらも、社会のルールと調和させる方法を見つけること。それが本当の意味での自己表現かもしれないわね」
フェアは夕方まで続き、大成功のうちに終了した。サウナ侍たちは、ルールを守りながらサウナ文化を広める新たな一歩を踏み出したのだ。
帰り道、三人は夕暮れの空を見上げながら歩いていた。
「今回も良い解決策が見つかったね」ケンジが嬉しそうに言った。
「うん」ハジメも頷いた。「最初は露出魔かと思ったけど、話してみるとそうじゃなかった。大事なのは相手の話をちゃんと聞くことなんだね」
「そうね」ユイも同意した。「でも、私たちの『モバイルお着替えカプセル』が役に立って本当に良かったわ」
「ユイのアイデアがなかったら、今回の解決策は見つからなかったかもね」ハジメは賞賛した。
三人は笑顔で歩を進めた。露出魔退治クラブの活動は、単なる「取り締まり」から「理解と協力による問題解決」へと発展していた。そして彼らは、その過程で自分たち自身も成長していることに気づいていた。
## エピローグ:桐山先生の入浴剤
月曜日の放課後、保健室では桐山先生が一人、窓の外を眺めながら入浴剤の小瓶を手にしていた。それは、サウナ侍たちからのお礼としてもらったものだった。
「サウナ侍、か…」桐山先生は小さく微笑んだ。「まさか私が子どもたちと一緒にサウナに入る日が来るとは思わなかったわ」
部屋には静かな足音が聞こえ、校長先生が入ってきた。
「お疲れさま、桐山先生」校長先生は優しく声をかけた。「昨日のイベント、大成功だったそうですね」
「ええ」桐山先生は頷いた。「子どもたちの活躍は本当に素晴らしかったわ」
「彼らは着実に成長していますね」校長先生は感心した様子で言った。「単に『露出魔を退治する』だけでなく、社会との調和点を見出す力も身につけている」
「そうですね」桐山先生は嬉しそうに言った。「彼らにとって、『正義』の意味も少しずつ変わってきているようです」
「そういえば」校長先生は少し声を潜めた。「次は何か問題が起きそうですか?この街、何故か露出関係の事件が多いですから…」
桐山先生はクスリと笑った。
「実は、最近校舎の裏で不審な人影が目撃されているらしいわ」彼女は窓から校庭を眺めながら言った。「どうやら『校舎の幽霊』というウワサが広まっていて…」
「幽霊!?」校長先生は驚いた表情になった。「またオカルト話ですか?」
「ええ」桐山先生は少し不思議そうな表情をした。「でも、その『幽霊』、なぜか白いシーツを被っているだけで、その下は…」
「まさか…」校長先生は顔を引きつらせた。「また露出魔?」
「そうかもしれませんね」桐山先生は微笑んだ。「でも、心配いりません。きっと露出魔退治クラブの子どもたちが解決してくれるでしょう」
「それにしても」校長先生はため息をついた。「なぜこの街には、こんなに変わった人が集まるんでしょうね…」
「それは…」桐山先生は遠い目をした。「この街には『自由の泉』という伝説があるからかもしれません」
「自由の泉?」
「ええ、心の奥底に眠る『本当の自分』が解放される場所だという言い伝えが…」桐山先生は微笑んだ。「少なくとも、私たちの街は退屈ではありませんね」
二人は顔を見合わせて笑った。窓の外では、ハジメ、ユイ、ケンジの三人が下校する姿が見えた。彼らの活躍はまだまだ続きそうだった。
桐山先生は小瓶の入浴剤を見つめながらつぶやいた。
「サウナの後のリラックス効果は素晴らしいわね…でも、やっぱり公共の場で半裸で走り回るのはダメよ」
そして彼女は小さく笑いながら、入浴剤を引き出しにしまった。今夜のお風呂が楽しみだった。
**――次回予告――**
「校舎に出没する白い影の正体は!?」
「幽霊のフリして露出する奇妙な人物!?」
「解散の危機!?露出魔退治クラブの存在意義が問われる!」
校長先生からの突然の廃部通告!?「小学生が露出魔と戦うなど不適切」という判断に、ハジメたちはどう立ち向かう!?
次回「露出魔退治クラブ、解散の危機!?」お楽しみに!
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