five minute
「先輩方、卒業おめでとうございます! これ、ささやかながらアルバムを作ったんで貰ってください」
鳴に超能力があるとカミングアウトされて、ひと月近くが経過した今日、卒業式が行われた。
左胸に花を刺しても、長い祝辞を聞いても、名を呼ばれても、卒業証書を手渡されても、どこか夢心地で卒業をするなんてピンとこなくて、私はそわそわと時計を何度も確認していた。
式が終わって最後のホームルームも終えて校舎を出たなら、写真部の後輩たちに囲まれて、手作りのアルバムを一人一人プレゼントされ。
周りを見渡せば三年も後輩も泣きながらも笑い合っていて、私もこれでもうみんなとお別れなのだと思うと、今頃になってめそめそと視界を滲ませた。
「……あ、あれ、鳴は? さっきまでそこに居たよね?」
「ああ、鳴先輩ならもう帰るって行っちゃ……って
「ごめんねっ、私も行かなきゃ……これありがとう、大切にするね!」
校舎に嵌め込められた大時計を確認すれば、12時57分と針は示す――その事実に、今までとは違った涙がぶわりとあふれ頬を伝いながらも、卒業生の群れを駆け抜けて、会えるか確信がない人の元へとただ急いだ。
「……っな、鳴!」
駅近くまで全力で駆けたせいで酸素の足りない肺は重く苦しい。
それでもやっと彼の背中を視界に捉えることができて、乞うように呼び叫んだ。
「いつもは、電車なのにっ……なんで、バス乗り場に、向かってるのっ」
「はは……こっちだってわかったんだ。凄いじゃん、深山」
振り向くと、くしゃりと笑いどこか困った表情で私を見つめる彼。
私が告白する未来を彼が変えてるのではと疑心を抱いてから、ずっと決めていたのだ。
――卒業式の日、13時に最初で最後の告白をすると。
ここ最近はそのことで頭が一杯で今日一日、何度も時計を確認してはずっと胸が高鳴っていた。
あと一時間。
あと三十分。
あと十分。
そしてあと五分後……。けれど数分、目を離した隙に鳴は姿を消していて、疑心は確信へと変わった。
「今までも、ずっと、こうだった? 私に告白されるのが嫌で、何度も回避してたの……?」
ただ私をまっすぐ見つめる彼は何も答えてくれない。
「だから教えてくれたの? 回避するのも面倒になって遠回しに、気づけよって? ……ああもう、鳴がそんな人だなんて思ってなかった。酷いよ、酷すぎる、一度も言わせてくれないなんて……」
まばたきを待たずして涙はぽろぽろと溢れ落ちる。
辛うじて浮かべていた笑みも消えた鳴は、瞳を揺らしながら「ごめん」と呟き、暫しの間沈黙が包み込み、彼はまた口を開く。
「深山と出会えて仲良くなれて良かったって、心の底から思ってる――元気でな」
そう言い終えれば翻り、その背中は徐々に遠ざかる。
――鳴はきっと、この瞬間のことも本当は視えていたんじゃないかと思う。私が酷いことを言うのも、きっと視えていて、でも彼は優しいから、最後にすべて受け止めてくれたんじゃないかって。
ああ、なんで、私はあんなこと言ってしまったのだろう、最後だったのに、きっともう会えないのに。
告白もできないままふられるのなんて、鳴の能力の計り知れない苦労に比べたら、対したことないってよく考えなくてもわかることなのに、何も力になれなかどころか、それを蔑むようなこと言うなんて。
手にしていたアルバムをふと開けば、そこにはなんでもない日の、満面の笑みを浮かべる鳴が写っていて。
もうこの笑顔を見れることはないのだと、友情を壊してしまったのは紛れもない自分なのだと、道の往来で人目も気にせず、わんわんと泣きじゃくった。
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