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「――……あのう、睡眠お邪魔して悪いのですが、この前の放課後、階段降りる時にいきなり腕掴んできたのも、もしかして関係してたりする……?」


 翌朝、眠たそうに欠伸をして教室へと入ってきた鳴は、自分の机に座るなり顔を突っ伏してそのまま寝落ちしようとしていて、そんな彼に私はコソコソと話しかけた。


 一晩考えてみたら、確かに彼と一緒にいるとき不思議に思うことが幾度となくあったことを思い出したのだ。


 そして思いつく限り新しい記憶は先週、教室がある三階の階段を降りようとした私の腕をいきなり掴んだ彼に、私はただただ心臓をバクバクといわせ首を傾げると、『ほら、降りるよ』と、一階につくまでなぜかずっと腕を持たれたままで。


 そんな奇妙な彼の行動が、今となれば何かを予知していたのではと心配になったのだ。


「……ああ、いや、特には」

「嘘だ! 絶対なにか視えてたんでしょう?」


 小声を厳守しつつ肩を揺さぶる私に、彼はため息を吐きながら「……これからは階段で気抜くなよ。転んで怪我すっから」と、ぶっきらぼうに言った。


「やっぱり、助けてくれたんだ……」

「知ってんのに目の前で転ばれちゃ、寝覚が悪いからな」

「ありがとう、おかげで助かりました」


 これ以上は彼の能力のこと訊くのはやめようと、小さく頭を下げてから自分の席へと戻った。

 

 彼が私の腕を掴んだからといって私が転ばないとも限らなくて、そうなれば彼自身も巻き込まれていたかもしれないのに……ああ、やっぱり優しいなあ。ほんと、困るなあ。また机に突っ伏す彼を見て、くすりと笑みが溢れた。



 でも一体なぜ、そんな彼にとって〝極秘情報〟を、私なんぞに話してくれたのだろうか、それが不思議でならない。


 同じ映画が観たいと判明して、休日に一緒に行こうってなって、そんなこと今までも何回もあったし、なんでもない日、そうなんでもない日だった筈――。


 夜ベッドのなかに入り込み、うつらうつらと微睡む思考のなか、映画を見た日を思い起こしてる最中、あることを思い出し一気に眠気が吹き飛び、ガバッとベッドがら飛び起きた。


 そうだよ、そうだった……私、あのとき〝今日こそは、鳴に告白しよう〟とエンドロールを見つめ、そう考えていたんだった。


 でもその後すぐに、彼が『俺ね、五分後の未来が視えんだ』だなんて言うものだから、すっかりその思考が遠出してしまってた。


 高一の春、鳴と出会い親しくなって、いつの間にか好きになって、幾度となく告白しようとしてきた。……そう、してきたのに、いつも直前で彼に話を逸らされてきた、気がする。


 『いま落語にハマってんだ、深山もちょっと聴いてよ』と、イヤホンを耳に突っ込まれたり――時に『次は講談』や――『あ、公演間に合わない行かねば』と帰られたり……他にも色々。


 結局のところ勇気がなくて言えなかったんだと思っていたけど、もしかしたら鳴には私に告白される未来が視えていて、それを回避する為にわざと話を逸らしていたのだとしたら……愕然としながら、そんな思考に心を曇らせた。


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