same feeling



――……そして七年の時が過ぎて、私は二十五歳になった。



「紗千ー! 久しぶり!」

「歩美!? わあっ、久しぶり! 雰囲気変わり過ぎてて誰かと思ったよ」

「あはは、紗千は相変わらず紗千って感じ」


 高校の同窓会の招待状を手に、緊張に顔を強張らせながら会場のホテルへと足を踏み入れれば、懐かしい面々と再会し徐々に緊張もほどけ始めた頃。


 離れた場所にいたグループの中に、今日は会えないと思っていた人物を見つけて、瞬間年甲斐もなく胸が高鳴った。

 そしてその人の視線が私を捉えた時、しまい込んだ筈の気持ちが褪せもせずに再び胸を満たしていくから焦る。


「深山、久しぶり」


 二度と会えないと思っていたし、もし会えたとしても、話し掛けてくれないと思っていたから、目の前に鳴守優成がいることが信じられず目を丸めた。




「――……中一の時に、親父が心筋梗塞で突然この世から消えてさ」

「うん」


 同窓会がお開きとなって、二次会へ行く人たちに別れを告げて、私と鳴は橙色に照らされながら影を伸ばし、駅の方へゆっくりと歩いていた。


 視線があって簡単なまでにすぐ話しかけられた時には、鳴にとってあの卒業式のことは、なんてことなかったのかと少しショックだったけれど、その後すぐに『深山に話しかける資格なんてないけど、ずっと謝りたかった』と言われ、こうして話す機会が生まれた。


「出掛け先で倒れたから、俺も母さんもまさか病院に運ばれてるなんて知らなくて。で、そん時も、病院から電話がくることも、その電話に出た母さんが取り乱すのも、五分前に全部視えてて。生きた心地なんてしないまま、何も知らずに親父の分の料理を取り分けてる母さんを見てるだけで――」


 当たり前だけど鳴は高校時代より大人びていて、微苦笑を溶かしたその横顔を見つめ、私は時折相槌を交える。


「手の届く範囲、いやそれ以外でも、五分先のことを知っていたって、大して役にたたないどころか、ただこれから起こる事実を、その悲しみを、誰よりも先に打ち付けられるだけの、こんな罰みたいな能力に絶望感した。……だから子供ながら傷つかない為にはって考えた末に、今居る以上にもう大切な人を作んないって決めて、それが今も鎖みたいに錆びて巻きついてんの」


 夕闇が閉じかけのなか、目前に駅を捉え、足を止めた彼に私もつられて止まった。


「そうだったんだ……」

「ごめん、あの頃はほんとに。ちゃんと話もしないで、深山のこと傷つけて逃げて」

「ううん、私こそ鳴の気持ち汲もうともしないで、あんな酷いこと言っちゃって……」

「深山が謝ることじゃないよ。重ったるい秘密持たせちゃったのは俺だし……苦し紛れに言わなきゃよかったって、ずっと思ってた」

「鳴の能力のことは絶対他言しないし、聞きたくなかったなんて思ってもないよ」


 むしろ、そんな彼にとって核となるものを打ち明けてくれたことに、内心はやっぱり嬉しかったのは事実で。


「……ん、ありがと。でも思ったより後悔してない自分もいて――こんな人間滅多にいないだろうから、深山の心に深く刻み込めんじゃないかってあの頃は思って、馬鹿だよな、ほんと」

「……え?」

「あの頃ね、俺も、深山のこと、好きだったんだ」


 私の目を見つめはにかんで、でもどこか懐古の果て寂しげに、そう言った彼に、私は呆然と立ち尽くして。


「じゃあ、元気でな」


 そして私の言葉を待つよりも早く、軽く手を掲げて、あいも変わらず優しい笑顔を見せて、彼は駅の雑踏の中へと向かって行く。


 ああずるい、自分だけ。

 どうせここで追いかけても、私には言わせてくれないんだろうな。それに理由を聞いた今じゃ言える筈もない。


「――鳴もねっ!」


 急いでそう叫べば、それが合図かのように、鳴の姿は人混みに紛れて見えなくなる。

 ドクドクと暴れる心臓を押さえながら、甘く切ないため息が溢れた。



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