第3話 猫を被る
晴明の言葉に、私は顔を顰めた。
今……何て言った?
つまりコイツは、人間に猫の代わりが務まると思っているということか……?
聞き捨てならない。人間に猫の代わりが務まるわけないだろ!!
猫が許されるのは、猫が可愛いからだ。
人間がテーブルからコップを滑らせて落として何の特別感がある?
パソコンでの作業中に、人間にキーボードに寝転ばれて許されるのか?
人間が爪とぎを壁でおこなったら「仕方ない」と思われるのか?
否! 否! 否!
全ては猫様の行いだから許される。その瞬間は怒られたとしても、数日経ったら許されている。そんな存在が猫なのだ。
人間如きに代わりが務まるなんて考えは、非常に烏滸がましい……。
コイツにはここで悶え苦しみながら生涯を終えてもらうほかあるまい……。
そう思って心の中で晴明を葬るシミュレーションを開始する。まずは適当に従うフリをして、油断した隙に包丁を奪うか……。
「あぁ、心配しないで。飼うって決めたからには捨てるような真似はしないから。お世話もちゃんとするよ? 働かなくていいし、ご飯も毎日三食好きなものを作ってあげる」
「……」
た、待遇が良い……!!
流石は〝人間を猫だと思いたい異常者〟だ。完全に私を猫として飼おうとしている。三食キャットフードは勘弁して欲しいけど。
「ち、ちなみにどこまで猫扱いするおつもりで……?」
「どうしてそんなこと聞くの?」
「三食キャットフードは流石に嫌なので」
私のおずおずとした言葉を聞くと、晴明は目を点にした。
そして、それから大きな声で「あははは!」と、やけに爽やかに笑い始めた。
「やっぱり君を拾ってきて正解だった……。大丈夫だよ。ちゃんと人間の生活をさせてあげるから。まぁ、逃げることは許さないけどね……?」
そういうと晴明は、ポケットから何かを取り出した。
「家の中ではこれをつけてもらうよ。このぐらいの長さがあれば、家の中なら自由に移動できるでしょ?」
猫にリードを付けるタイプだと……!?
晴明が手に持っているのは鎖だった。だがこれはリードといって差し支えないだろう。
でも家の中でリードなんて、ストレス過多で禿げてしまうのでは。
まぁ、家で猫を飼っている人は、外に猫を出さないように試行錯誤するというし……。
これが晴明の考えた、私を外に出さないようにする方法ということか……。結構迷走したんだろうな。
「なるほど……。お前も色々考えているってことか」
「うん? まぁ、そうだね」
「……わかった。なら私も、お前の期待に応えてあげよう」
私は立ち上がり、人差し指を晴明に向けて高らかに宣言した。
「私が完璧な猫を再現してみせる……!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます