第4話 猫の鳴き声

 その宣言を聞いた晴明は、若干の困惑を顔に滲ませながら「何かよくわからないけど、頑張って」と言ってきた。


 自分から「猫みたいに可愛がる」と言ったくせに、やる気が足りないのでは?

 これは初日から飛ばしていく必要があるな。


「なぁ晴明。何か紐みたいなやつ頂戴」

「え、紐? 何に使うの?」


 晴明が私の足とベッドを鎖で固定しながら問いかける。


「決まってるだろ。猫の尻尾を再現する。猫は尻尾で感情表現をするから」

「……わかったよ。ところで、優希ちゃんはごっこ遊びにハマってるの?」

「遊びじゃない。本気だ」


 やっぱりコイツはわかっていない。

 人間が猫を再現することが、どれだけ難しいのか。


 仕方ない。私の本気をお見舞いするとするか……。


○○○


「優希ちゃん?」

「んなぁー」


 私はベッドの上に転がりながら、鳴き声を上げ、リボンをペシペシとベッドに叩きつけた。

 猫との交信のために培った極上の鳴き真似を見た晴明は、あまりの完成度の高さに唖然としているようだ。


 そうでしょうとも、そうでしょうとも!!

 私のこの鳴き真似は、血反吐を吐く思いで(実際吐きながら)習得した自慢の技だ。


 実際三回くらいは猫から近寄らせることに成功したが、猫を騙すような真似をしている自分を恥じ、この技は封印していた……。


 しかし今、今日このときに使うことになるとはね……。

 やっぱり、私のあの特訓は無駄ではなかった……。


 そんな思いを募らせ思わず泣きそうになるが、高貴な猫は人前では泣かないため、涙を抑える。


「今からご飯作るけど、何がいい?」

「……」


 私は尻尾だけで返事をしてみせる。

 ちなみにこの尻尾の意味は「はいはい、聞いてまーす」という意味だ。

 いつでも返事が返って来ると思うな人間め……。


「優希ちゃーん?」

「……」


 次は先程より大きく振ってみせる。

 今回は「だから聞こえてるっての!」という、先程より怒りを強めに表現してみた。


「ごめん、優希ちゃん。僕にはまだ猫語は早いみたい。人間の言葉で話してくれない?」

「もう根を上げるとは、見下げた男だ……。仕方ない。普通に話してやる」

「ありがとう。優しいね」

「ふん。格下にこそ優しくせねば、我の格が下がるというものよ」

「普段、猫にそんなこと言われてると思ってるってこと……?」


 晴明は何故か慰めるように「流石にそこまで見下してはないと思うよ。大丈夫だよ」と私に笑いかけた。

 この計算され尽くした綺麗な笑顔は気に入らないが、そこまで頑張らなくていいよというコイツなりの思いやりなら、汲んでやるのが猫というもの……。


「仕方ないから、飼われて四年後くらいの厳しさにしてあげる」

「うん……? ありがとう?」

「ご飯は刺身にして。ツマもつけて」

「わかった」


 晴明は私の頭を撫でてから、部屋をあとにした。

 まぁ、私もついて行くんだが。


「一緒に来るの?」

「行く」


 私は頷いて、たまに晴明の足を払いながら、後ろを追いかける。


「あ、危ないから、足はやめようね……」

「早く行こう」


 こんなものはまだ序の口だ。

 猫のいる生活というものを、思う存分知るがいい……!!

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