存在の捏造

午前0時、提出された「最終構成案」に対する判定通知が届いた。


【結果通知】

提案は承認されました。

新たな存在定義が適用されます。

有効日時:即時


システムの中枢が、一瞬だけ“沈黙”した。


静かな更新。

だがそれは、世界が“誰を人間と見なすか”を根本から書き換える行為だった。


午前0時01分。


廃棄予定だった“削除ログ”に、再び“在籍者情報”が自動反映された。

記録されなかった人物たちの名が、再びファイルの中で光を持つ。


久坂直哉(感情復元率98%)


青山徹(印象接触9件)


伊藤沙希(言葉記憶6件)


unnamed_045(共感者多数)


これらは、構文ではなく“共鳴”によって復元された人々だった。


誰かのデスクに、名前の札がそっと戻された。

誰かの記憶の片隅で、“あの人の言葉”がもう一度響いた。

誰かの夢の中で、“確かにいた”その存在が、静かに頷いた。


久坂はモニター越しに梨絵へ言った。


「結局、存在なんてものは──」


梨絵はその続きを奪うように言った。


「“誰かが覚えてる”ってことが、すべてだったのね」


彼は笑った。


そして、2人は最後のファイルを開いた。


【タイトル】:存在の捏造

【著者】:記録係(再構築) 沢渡梨絵、久坂直哉

【最終行】:

「私たちは、名前を呼び続ける。たとえ誰かが、それを忘れても」


送信ボタンは、もはや“義務”ではなかった。

それは祈り。証明。救済。そして、ささやかな革命だった。

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