在籍処理

午前4時――

社内サーバー群に、異例の低負荷メンテナンスモードが発生した。


これはかつてない現象だった。

何も更新されていないはずの時間帯に、

膨大な数の“非構文データ”が一斉に再読込されていた。


その発火点は、

梨絵が提出した「人間の再定義(案)」だった。


【再定義ログ検出】

参照データ:記憶共有/感情痕跡/在籍影響値

対象者リスト:自動生成中……完了


画面に現れたのは、“削除対象者”としてリスト化されていた名前たちだった。

しかし今回は、それらが**“在籍中”のマーク**で返ってきていた。


久坂直哉


青山徹


伊藤沙希


原田誠


unnamed_045(未命名だが記憶感応値あり)


梨絵の端末に通知が届く。


【通知】在籍処理が完了しました。

以下の者の存在が復元され、ステータスが“active”へ変更されました。


──画面上で、かつて消された人間たちの名が“在籍”へと塗り替えられていく。


存在の復元に必要だったのは、“完璧な履歴”ではなく、

“誰かの記憶に宿った断片”だった。


それを見ていた数名の社員が、静かに呟いた。


「そういえば……あの席、誰か使ってたな」

「話したことないけど、確かにいた。何かを残してた気がする」


まるで、“記憶が開封される音”がビル全体に響き渡ったようだった。


その夜、掲示板にひとつの新着通知が表示された。


投稿者:GR-SAW-0421

タイトル:【存在確認報告】

内容:もし、“名前を忘れた誰か”を思い出したら、それを記録してください。

あなたの記憶が、その人をこの世界に“再び在籍させる力”になります。

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