Lesson 5 『イイ事しようか、リュウちゃん』

「キリやんがクリスマスは一緒に過ごそうねって」


「はぁ?」


「クリスマス」


「でもその日は…」


「でもクリスマスは恋人と過ごすものだってキリやん言ってた」


俺の言いたい事が分かったのか、言葉を遮ってまで言い切ったこいつは、寝転ぶ俺をベッドの下に座って真っ直ぐ見る。



「いいか、里紗。クリスマスは家族団欒でケーキをつつき、幼馴染みとイルミネーション見に行くのが世の常だ」


「そんなの嘘だ!」


「里紗、…お前、俺とキリヤマのどっち信じるってんだ」


「だって私の友達も彼氏と過ごすって言ってた!」


「それは友達。里紗は里紗、俺は俺。みんな違う、だから里紗は幼馴染みの俺と過ごすのが当たり前」


「意味分かんない!」


「うん俺も」


はっと笑って胸の上に置いてた雑誌を傍に放り投げて、空いた手でこいつの手を掴むと、引っ張った。



俺の隣に寝転がったこいつの頭の下に片腕を伸ばして腕枕してやると、こいつはすっと俺に近寄って至近距離で俺を見上げる。



「それでね?」


「うん」


「キリやんがクリスマスは私に触れたいって言うの」


「はぁ?」


「クリスマスは世界共通でセックスデーらしいよ?」


「セッ…!」


「知ってた?」


「いや、てか、おまっ…セッ!」


「セックス?」


「ばっ…おま、ばっ!」


「何どうしたの?隆太がいつもしてる事じゃん」


知ってたのか!



いや俺がヤってる事もだけど、その単語とかその中身とか…いやまじでそんな普通の顔で言うな頼むから!イメージが!


むしろ可愛いって言っただけで照れるこいつだからこんな普通に言うって事は中身は知らねぇって事か!?どうなんだ!どう、どう…くそ!とりあえず落ち着け俺!



「お、おぅ…よし、」


「うん」


「とりあえずその情報は誤報だ」


「そうなの?」


「そうだ、クリスマスは家族団欒でケーキをつつき、幼馴染みとイル…」


「でも友達も彼氏とヤるって言ってたよ?」


「ミネー…うん、人の話は最後まで…って言うかヤるとか言うな」


「えぇ?」


「その友達は、多分、ちょっと、可笑しい」


「可笑しくないよ!キリやんだって同じ事言ってたもん!」


「クリスマスは恋人とセックスする日だってキリヤマが言ったのかよ?」


「友達も言ってた!」


「そっか」


「うん」


「でもな、里紗」


「うん」


「誰が何と言おうと俺はクリスマスは幼馴染みと過ごすべきだと思うんだよ」


「うん」


「……」


「……」


「…里紗?」


「隆太の意見は分かった」


「なら、良かった」


「でもそれは隆太の常で世の常ではないみたいだから」


「……」


「今年はキリやんと過ごす」


「…早死にするぞ?」


「そしたら後で隆太驚かせてドキドキさせてあげるよ」


「…ヤんのか?」


「キリやんがしたいって言ってるから」


「そっか…」


「うん」


「……」


「でも、」


「ん?」


「その時になって恥かくのは避けたい」


「うん」


「だからさ?」


「うん」


「練習しとかないとね、リュウちゃん」


「やだ」


「えぇ!」


「ヤんねぇよ」


「何で!」


「できねぇだろ」


「だから何で!」


「何でも」


「私が恥かいちゃってもいいの!?」


「知らね」


「薄情者!」


「どうとでも」


「最低!」


「うん」


「もう隆太なんて幼馴染みなんかじゃない!」


「うん」


「!」


「別に、」


「……」


「勝手に誰とでもヤって恥かいてれば?」


「……」


「俺には関係ねぇし」


「……」


「俺ら、幼馴染みじゃねぇみたいだし?」


「……」


「行けよ」


「……」


「行け」


「……」


「誰のとこにでも行っちまえ」


「……、」


「行け!」


「……」


「……」


「…分かった」


「……」


「言われなくても行くもん!」


「……」


「隆太の馬鹿!」


「……」


「アホ!分からず屋!」


「分からず屋はお前だろうが!」


「鈍感!」


「だから鈍感はお前にだけは言われたくねぇっつの!」


「やりちん!」


「やりちっ…!てめっ、この野郎!」


「私の気持ちなんか何にも分かってないくせに!」


「お前だって俺の気持ち分かってねぇだろが!」


「…それだから馬鹿って言うんだよ!」


「何だと、ごら!」


「もういい!」


「あぁ!」


「絶交だもんね!」


「あぁ絶交だ!」


「もう喋りかけないでよね!」


「お前こそ部屋入ってくんなよ!」


「ふん!」


「ふん!」


「じゃあね!」


「あぁじゃあな!」






…やっちまった。

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