Lesson1『リュウちゃん、デートしようか』

「リュウちゃん」


「…何だよ?」


「初、彼氏ができました…!」


恐れていた事が起きてしまった。



何だこれは。好きな人ができました報告からまだ1週間も経ってねぇのに、いつの間にそんな展開に。早すぎて見張る間もなく俺の初敗北。


そりゃナンパって聞いてんだから相手の男がチャラいのは最初から分かってたけど、これはない。


今までの事を含め油断しすぎた。



「告白したのはね、私だよ!」


「……」


最早言葉も出ない。



まさか。何でお前が。え、今までのあれやこれは何だった?何年も片想いしてやっとの事で告白するんじゃ…え?



「まぁナンパしてきた時点でキリやんが私に気があるのは分かりきってた事だからね!」


いやナンパするような奴は所詮女なら誰でもいいんだぜ?



「フラれる心配ないからね!私から言ってみた!」


いやその根拠はどこからきてるのか。



今更頭を抱えてみても、もう遅い。こいつが世間一般を知らないのは今に始まった事じゃない。


どんな言葉で騙されたか知らねぇけど、こいつの頭じゃ『ナンパ=一目惚れ』の方程式でも成り立っているんだろう。


くそ、誰かこいつに常識を教えてやってくれ。



「それでね、リュウちゃん」


「……」


「頼みたい事があるの」


「嫌だ」


「まだ何も言ってない!」


「嫌だ」


「せめて聞いてからにして!」


「い、や、だ」


「あのね、頼みたい事って言うのはね、」


「おい、こら!俺の意思は無視か!」


「リュウちゃん」


「……」


「リュウちゃん」


「……うん」


「キリやんが今度デートしようって言うから練習しなきゃ、ね?」


「…そりゃしねぇとやべぇな」


結局またこいつのリュウちゃんにやられる俺。






「…つってもなー」


「つってもなぁ」


俺の言葉をご丁寧に溜め息まで付けて真似をするこいつ。



我が家のリビングで寛ぐ俺達の格好は、部屋着、ではなく出掛け着。しかも"初デート"仕様。


俺が見立ててやった服を着てこいつはすっかりソファに落ち着いてしまった俺の隣に座っている。



「デートっつっても今更だよな」


「だよな!」


「真似すんな、こら」


「真似してないもん、こら」


つくづく二十歳には思えない精神年齢の低さ。誰かこいつに落ち着きをやってくれ。



「今更って何で?」


「あ?」


「デートした事ないじゃん」


「した事ねぇけどまぁデートみたいなもんだろ今までの」


「した事ないのにデート?けどまぁみたいな今までの?」


「あーもう!分かった、今までの俺ら二人で出掛けたのは全部デートだ!そう、もう数え切れないくらいデートしてたな俺達!」


「わあお!」


言った事は俺の願望で、初デートの練習じゃなくて初デートはすでに俺と済ませたって事にしたかった。



そんな無茶な言い分を、こいつは本気でそうだったんだと信じる。馬鹿で良かった。まぁそういう馬鹿なところも好きなんだけど。



「じゃあさ、もうデートの練習ってしなくていいんだ?実は私ってデートの達人だったんだね」


「まあな。でもほら、折角着替えたんだしな」


「私お腹空いた!」


「よし、隆太様が奢ってやろう」


はははとわざとらしく笑いながら財布を手に取り立ち上がると、「やったー!」と万歳しながらこいつも立ち上がる。



そして。



「デートだね?」


差し出した俺の手を両手で握りながら上目遣いで俺を見上げたこいつに、悔しくもやっぱり好きなんだよなと確認させられた。



「デートって言うのは、要は言い方なんだよ」


「言い方?」


「俺らがこの前まで二人で出掛けてたのはデートって思ってなかったけど、実はデートだったろ?」


「うん」


「だからさ、」


「うん」


「今度お前がキリヤマと出掛けるのも、デートつってるけど本当はデートじゃねんだよ」


「あぁ、そっか!」


「うん、そう言う事」


つまり、これから先こいつがデートできんのは俺とだけって事。



そんな事にも気付かず笑ってるこいつを、俺は俺だけの鳥籠の中に閉じ込めていたいと思う。

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