餓鬼たちへの鎮魂歌
黒袴の裾を揺らし、惠斗は前に出る。曼殊沙華の赤が風に震えた。
『俺はまとめて縛っちゃるけ、惠』
「うん」
私が続きを唱えだすと同時、惠斗の足元に黒い靄が広がっていく。それは地面を這い、曼殊沙華の影と溶け合いながら餓鬼たちの足元へと忍び寄った。
惠が静かに息を吸い込み、言葉を紡ぐ。
「南無 施餓鬼 南無 施餓鬼
飢えに泣く魂よ 施しを受け 安らぎへ還れ……──――」
その声は澄んでいて、それでいて芯のある響きだった。音が空気を震わせるたび、餓鬼たちの歪んだ輪郭が揺らぎ呻き声が弱まっていく。
『動くな…… ! 』
惠斗の影が一気に伸び、曼殊沙華の赤と混ざり合いながら巨大な網のように形を変える。影の縄は餓鬼たちの腕や脚に絡みつき、骨のきしむ音を立てながら動きを封じた。
『まとめて、落ちてまえ ! 』
地面の影が渦を巻き、捕らえた餓鬼たちを一気に引きずり込む。足元がぐらりと揺れたかと思うと、そこには底の見えない闇の穴が開き飢えた影たちは呻き声とともに飲み込まれていった。
それを見守りながら私は、最後の一節を告げる。
「……施しは終わり。還りなさい。
安らかに、おやすみ」
闇の穴がすっと閉じ、曼殊沙華の花びらが一枚ひらりと舞い落ちた。腐臭は消え、塔の周りに静寂が戻る。
『……終わったな』
「うん。でも……また、来年も来ないとね」
曼殊沙華の花影の奥で、誰かが笑ったような気がした。
ようこそ、心霊相談所【きさらぎ】へ 里 惠 @kuroneko12
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