番外編

俺の隣は空席のまま

ずっと想いを寄せていた女の子に告白をされた、…んだと思う多分。



好きなんて言葉はなかったけど、俺が頷くとその綺麗な瞳から涙を流した彼女に、らしくもなく俺はとても舞い上がってしまったんだ。



無意識にその姿を目で追っていた。視線がぶつかると、そらしてしまっていた。


話し掛ける事ができなかったのは、拒否されるのが怖かったから。



『篠原くんっ』


そんな意気地のない俺を受け入れてくれて、しかも好きになってくれた彼女を、俺はもっともっと好きになってしまっていた。



時が過ぎれば過ぎる程、募る想い。


傍に居るだけで、名前を呼ばれるだけで、高鳴る心臓。



以前のように彼女を見る事さえできなくなっていた。


彼女の隣に立つ事を許された今。だけど、俺は未だ彼女の隣を歩けてはいない。



一緒に帰っていても、二人の間には大きな距離がある。



『ん』


そう振り返って手を差し伸べる事ができたら、その白くて小さな手を握り締められたら、どれ程幸せなのだろう。



そんな事を思っていても、意気地のない俺の手はポケットの中に納められたまま。




『もうすぐ夏休みだよね』


一度、今まででたった一度だけ、彼女が俺の傍へとやって来た事がある。



2メートルの距離を詰めて。


真隣に並ぶ事はなかったけど、いつもより近い距離にドキドキしていた。




『……』


『…あのさ、』


俺宛に投げ掛けられた可愛い声に。どきりと心臓が跳び跳ねた。



…こんなの、格好悪い。


赤くなった顔を見られないように、早める足。彼女が若干小走りになっていると気付いたけれど、もう止められない。



『…夏休み、どこか遊びに行こうね』


独り言のようにそう呟いた彼女の顔は見る事ができなかったけれど、きっと真っ赤に染まっているのだと思う。



――あぁ、嫌だ。


悔しい。そんな言葉は俺が言わなきゃいけないのに。



でもきっと、俺ではいつまで経ってもその言葉を言う事ができなかっただろう。そんな自分がとても嫌だ。



『……』


『…篠原くん…?』


恐る恐る俺の顔を窺うように下から見つめてくる視線を感じ、俺はその視線から逃れるようにふいと顔を背けてしまった。



『…っ』


『ごめんね』


小さな声を漏らした彼女に、顔を背けたままそう言う。



言わせて、ごめんね。




…――この言葉が彼女を傷付けた事を俺は知る由もなかった。




それからずっと、



俺の隣は空席のまま。





~END~

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