第5話

咲羅さくらさん、今日は何か良いことでもあったんですか?』




ここに来たばかりの頃を思い出していると、不意にカウンターの向こうから声をかけられて、ドクっとした。

そんなことをおくびにも出さないように、声をかけてきた人物の方へと視線を向けた。




「はい、今日はようやく取りかかっていた仕事が無事終わったんです」



『そうですか、それは良かったですね。お疲れさまでした』




そう言って、最上級の笑顔を見せてくれたのはこの店の店長でもある柾木まさきさん。

私があの日、試作品だったレモンケーキがレギュラーメニューに入ったのと同じく、一年程前から定期的に来ていると、さすがに店員さんや柾木さんにも顔を覚えられるようになり、ある時、声をかけられた。




《『レモンケーキ、気に入っていただけて嬉しいです。いつもありがとうございます』》



《「!あ、いえ…」》



《『すみません、いきなり声をおかけして。私、この店の柾木と申します。いつも美味しそうに食べていただいて嬉しかったので、つい…』》



《「いえ、こちらこそです。柾木さん、いつも美味しいレモンケーキ、ありがとうございます。私のご褒美なんです」》



《『ご褒美?レモンケーキがですか?』》



《「仕事がうまくいった時の自分へのご褒美です」》



《『そうなんですね、それは光栄です』》




なんて会話を交わして、それから柾木さんとは来店時に言葉を交わすようになった。




『ごゆっくりしていってください』



「はい、ありがとうございます」

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