第14話
「くっ……」
剣と短剣がぶつかり、金属音が響き渡る。何合か斬り結んだ後、ルーシェはアイラから距離をとった。
(さっきからこの繰り返し。相手があの『天授』を使ってこないのが幸いだけど)
今のところアイラはあの『天授』を使ってきていない。それはルーシェにとっては幸運なことだ。しかしいつまでも相手が使ってこない保証はどこにもなかった。
(早く決着をつけないとこちらが不利になる。けれど決定打が私にはない、なんとかしてアイラを一撃で倒せる方法を考えないと)
ルーシェが思案しているとアイラが再び仕掛けてきた。
「ゆっくり考えさせてくれるわけないわよね」
向かってきたアイラは短剣を突き出してくる。それをかわしてルーシェはアイラへ蹴りを叩きこんだ。蹴りを叩きこまれたアイラの体は吹き飛んでいく、しかし彼女は素早く受け身をとって体勢を立て直した。
ルーシェはアイラに反撃の隙を与えないために魔力を用いた身体強化で吹き飛ばされたアイラに接近し、袈裟斬りに剣を振り下ろした。しかしアイラはそれを短剣で受け止め、逆に先ほどのお返しと言わんばかりに蹴りを繰り出してくる。ルーシェはそれを受け止めて反撃をする、一進一退の攻防が繰り広げられていた。
そんな攻防の中でもルーシェは思案する。
(このまま戦っていてもやっぱり駄目だ。セレスの戦い方の中でなにか使えるものがないか思い出そう)
アイラと剣を交えながらルーシェはセレスの戦い方を思い出しながらなにか状況を変える方法がないかを思案する。今のルーシェにとって最強はセレスなのだ、彼女の戦いの中から必ず得られるものはあるはず。
「あっ……」
呟くような小さな声がルーシェの口から漏れ出る。しかしアイラの放つ短剣の攻撃はしっかり裁いていた。
(あった。私に真似できる方法……! うまく行くかは分からないけどやるしかない!)
ルーシェは思いついた作戦を実行に移すことを決意する。彼女は斬り結んでいたアイラの短剣に強く自分の剣をぶつけて彼女と距離をとる。そうして魔力を自分へと集めることに集中し出した。
(セレスがルーマスとの戦いで使った魔力を集中させて相手に放つ技。あの規模では無理だけど放つだけなら私にも出来るはず!)
あの技を放ったセレスの姿が脳裏に浮かんでくる、不思議とどうすればいいかが頭に浮かんできた。
ルーシェの周りに魔力が渦を巻き始める。アイラはそれを察したのかルーシェの行動を阻止しようと彼女のほうへと向かってくる。
「遅い! はああああああああああああああああああああ!」
放つのに十分な魔力を練り上げたルーシェから凄まじい一撃が放たれる。光はアイラに向かって進み、彼女を焼き払おうと迫る、アイラは回避の行動をとろうとするが間に合わない。彼女の体にルーシェの放った一撃が直撃した。
「!? えっ……?」
だがその攻撃が直撃したアイラの体は消えてしまった、まるで霞のように。
ぐさりとルーシェの脇腹に刃物は突き刺さる音がした。
「あっ……」
痛い、刺された場所から痛みがルーシェの全身に広がっていく。刃物が突き刺さった場所はお腹の反対側だ、そしてその刃物――短剣を握りしめていたのはアイラだった。
「そうか。ここで『天授』を使ったのね……」
前回のセレスとの戦いでも使用した自分の幻影を作りだす『天授』。その力で生み出した幻影をセレスに突っ込ませ、本人はもう一つの『天授』で姿を隠してルーシェに接近。そして短剣で見事ルーシェに一撃を加えることに成功したというわけだ。
「そっか、ここで『天授』を使ってくるなんてね。本当に使い方が上手だわ」
ルーシェは感心したように呟く、そしてその口に笑みを浮かべた。
「――でもその攻撃は予想してたわよ」
ルーシェの周りに再び魔力が集まりだす。再び魔力を集めて放つ気なのだ、アイラは咄嗟に離れようとするがその場から動けない。
「……!?」
アイラは自分の足元を確認する。そこで見たのは自分の足が氷漬けにされているところだった。それはルーシェが魔力操作で生み出したものだった。
「これで逃げられないでしょう?」
ルーシェがアイラに微笑む。彼女は完全にルーシェの策に嵌ったのだ。
「あなたがその『天授』をどこかで使うことは分かっていた。厄介な力だったから普通に戦っても破ることは難しい。だからセレスのやり方を参考にしてあなたが私の思い描いた通りに『天授』を使うように誘導してみたのよ。うまくいくかはわからなかったけれど」
最初の魔力を放った一撃はすべてアイラに『天授』を使わせて攻撃させるためだった。ルーシェの予想通りにアイラは『天授』を使ってアイラを倒しに来たがそれはルーシェの策の内だったのである。
「これで終わり。もう楽にしてあげるわ」
至近距離でアイラに向かって再びルーシェから生み出される魔力が放たれる。放たれた魔力はアイラの肉体を一片残らず吹き飛ばした。後に残ったのはルーシェに刺さったままの彼女の短剣だけだ。
「……哀れな王女様ね」
ぽつりとルーシェは呟く。彼女の辿った道のりと結末はなんとも後味の悪いものだった。結局他人に自分の憎悪を利用されただけになってしまったのだから。
「って感傷に浸っている場合じゃないわね、とりあえずは一段落したけど」
息を吐きながらルーシェはアイラが刺した短剣を引き抜く。傷口から血が溢れてきた。
「っ……」
痛みで顔を顰めるルーシェ。しかし今は痛みに負けている時ではない、なんとか傷をふさいでセレスの元へと向かわないといけないのだから。
「私にもあれ出来るかしら」
そう呟いてルーシェは目を閉じる。想像するのはセレスがアイラと戦った時に行った魔力を用いた治療。
(ああ、どうすればいいかが頭に浮かんでくる)
なぜかは分からないがさっきの魔力を放った時もどうすればいいかが頭に浮かんできたのだ。今回も思い浮かんだままに治癒を行った。
「……うまくいったみたいね」
彼女が目を開くと血は完全に止まり、傷口もふさがっていた。どうやら治癒には成功したようだ。
「よし!」
気合を入れなおしてルーシェはある方向を見る。その方向から響いているのは大きな戦闘音、セレスとダリルと名乗ったあの男はまだ戦っているのだ。
「待っていて、セレス。今からあなたを助けに行くから」
今の自分なら彼女の助けになれる。そう思いながらルーシェはセレスの元へと向かうのだった。
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