第9話
「……くそっ」
セレスとの戦いから逃げたアイラは王都から離れて休息をとっていた。
「またあいつを殺せなかった」
アイラは唇を噛みながらぽつりと呟く。
セレスティア・エレメイン、アイラにとって憎き親の敵、彼女が大好きだった祖国を滅ぼした悪魔のような女。彼女の平穏を滅茶苦茶にした張本人――。
アイラはある国の王女として生まれた。様々な国が乱立する中でアイラの国もまた他国との戦いが絶えない国だった。
それでも両親や兄弟はアイラに愛情を持って接した。アイラはそのおかげで明るく素直に育っていく。
そんな彼女に転機が訪れたのはエレメイン帝国との戦争が始まってからだ。
帝国との戦争でアイラの国は敗北してしまう。両親や兄弟はその戦争で皆殺されてしまった。この経験は生き残ったアイラの心に深い傷を残し、彼女を復讐の鬼に変えた。
結局前世では腕を磨いてセレスティアを殺そうとしたが自分が殺される結果になってしまった。
だから今回の女神の試練はアイラにとってセレスティアに復讐を果たす絶好の機会だった。セレスティアを殺すために『天授』という超常の力も扱えるようなは
だというのに――。
「まだ足りないというのかあいつを殺すには……」
頭を抱えながら呻くようにアイラは呟く。
「畜生どうしたら……どうしたらあいつに勝てる。まだ足りないというのか」
セレスティアの強さは今も健在だった。確かに生前よりは弱いのもかもしれない。だがそれでもあの他を寄せ付けない圧倒的な強さは健在だった。対峙している時も圧倒的な力量差を痛感してしまった、同時に自分が酷くなさけなくなる。自分は『天授』という力を授かってもセレスティアに敵わないのかいう問いかけがアイラの中に生まれてしまう。
「お困りのようだね、君」
突然声をかけられアイラは咄嗟に短剣を構える。声のした方向には一人の男性が立っていた。
「おや? 短剣を構えるなんて物騒なことはやめて欲しいが。俺は君の見方だ、私は君と話をしに来たんだよ。あの恐ろしいセレスティア・エレメインを倒すために協力して欲しいと」
あのセレスティアを倒す? そんな方法があるというのだろうか。
「味方? それはつまりお前の敵もあのセレスティア・エレメインということか?」
半信半疑に思いながらもアイラが問うと男は頷いた。
「そう、僕は君を助けるためにここに来た。話をしよう、アイラさん」
男はにやにや笑いながらアイラのほうへちかづいてくる。
「それ以上近づくな!」
アイラは武器を構え、叱責も男はものともしない。歩みを止めようともせず、気味の悪い薄ら笑いを浮かべてこちらへ向かってくる。
(なんだ、こいつから感じる薄気味悪さは……放っておいたら不味い気がする)
「……警告はしたからな」
アイラは男の背後へと回り込み、相手の首目掛けて短剣を振り下ろす。が、男はそれを難なくかわした。
「酷いなあ。碌に対話もせず、攻撃するなんて」
男はそのまま腰の剣を引き抜き、アイラに斬りかかってくる。少しの応酬の後、アイラは男と距離をとった。
(かなりの実力がある……本当に何者なんだ……)
平和で安定したこの時代にこれほどの実力者がいるのは考えにくい。だとしたら、
「お前もあの女神に選ばれたものか……!」
アイラの言葉に男がにやりと笑う。
「ご明察。さて、君への勧誘は断られてしまった。残念だけど実力行使で君を僕のものにしよう」
周囲から何かが現れる。それを見たアイラは絶句して言葉を失った。
「貴様、これは……!」
「さあ、楽しい宴の始まりだ」
楽し気な男の声が不気味に響き渡った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます