第4話
セレスとルーシェを中心に吹き荒れる魔力の嵐、それは周囲一帯を巻き込んでいく。剣を振り下ろそうとしていたルーマスの動きはその魔力の嵐に阻まれ止まってしまう。
吹き荒れる嵐の中心にいるルーシェはなにかが繋がった感覚を確かに感じていた。
「ありがとう、ルーシェ」
傍にいるセレスがルーシェにお礼を述べる。彼女はルーマスを睨みつけ、再び戦闘体勢に入った。
「今までよくもやってくれたね」
セレスのよく通る声が響く、彼女はルーマスに一気に接近するとその顔に拳を叩きつけた。ルーマスはそのまま吹き飛び、持っていた大剣を手放しながら地面を転がる。
「結構痛かったからね、君の攻撃。だから倍にして返させてもらうよ」
セレスはルーマスが取り落とした大剣を拾い、とてつもない早さで彼に接近する。彼へと肉薄したセレスはルーマスに向かって大剣を振り下ろした。袈裟切りに振り下ろされたその大剣はルーマスの体を簡単に斬り裂いていく。ルーマスの体から鮮血が吹き上がった。
「ぐあああああああああああああああああああああ!!」
斬られた痛みから声をあげるルーマス。しかし彼の傷は瞬く間に再生していった。
「やっぱりこの程度じゃすぐに再生するか」
ルーシェにとっては何度見ても異様な光景だが、セレスはその光景をなんでもないように眺めている。
「ははは! そうだ! この程度の傷は今の俺にとっては無意味だ! まずはその俺の大剣を返してもらうぞ!」
傷が言えたルーマスはセレスに殴りかかる。彼女はひょいとそれをかわし、彼の腕を斬り落とした。ぼとりと彼の斬り落とされた腕が音を立てて地面に落ちる。
「……!?」
ルーマスは顔をしかめるも斬られた腕はすぐに再生する。彼はセレスから距離を取った。
「くそが……なんでいきなり調子が戻ったんだ……!!」
「彼女のおかげかな」
セレスがルーシェのほうを見るとルーマスは顔を歪ませる。
「女ぁ……一体なにをした……」
怒りの籠った言葉をルーマスはルーシェに吐きつけるが、
「おっと彼女に手出しはさせないよ」
「!?」
セレスがルーマスに接近し、剣を振り上げる。再び彼の体から鮮血が吹き上がるがすぐに再生する。
「本当に面倒だね、その体」
セレスはルーマスの再生を見て忌々しそうに吐き捨てる。
「どれくらいまでなら耐えられるのかな、その力」
セレスは体より遥かに大きい大剣を軽々と振るい、ルーマスの体を斬り刻んでいく。美しい剣閃が閃き、鮮血がそれを彩った。
「が……がああああああああああああああああああ!」
先程まで優勢だったルーマスは一瞬にして劣勢に追い込まれていた。反撃を試みてはいるのだがセレスにはまったく通用しない、どの攻撃も軽くいなされ逆に自分の傷を増やす結果になっていた。
「くそがあああああああああああああああああああ!」
ルーマスは怒りのままに拳を振るうがセレスには当たらない。セレスがカウンターで拳を繰り出し、ルーマスの顔にめり込んだ。顔を殴られた彼はそのまま地面を転がっていく。
「ぐはっ……」
「まだまだ」
地面に倒れているルーマスに接近するとセレスは彼のお腹に大剣を突き刺した。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああ!」
聞き苦しい悲鳴を上げるルーマス、しかし傷はすぐに再生しようとしていた。
「これだけ攻撃を試したみたけどやっぱり今の君を殺すには跡形もなく吹き飛ばすしかないみたいだね。しかも一撃で」
セレスの言葉と共に彼女の周りに魔力が渦巻き始める。莫大な量の魔力を彼女が練り上げているのだ。
「……てめえ……!? まさかその魔力をぶつけて俺を跡形もなく消し飛ばそうってのか……!?」
ルーマスはセレスの意図に気付いたようで苦い顔をしている。
「させるか……!!」
セレスの技を阻止しようとルーマスはお腹に刺さった大剣を引き抜き立ち上がる、そして拳をそのままセレスへ叩きつけようと大きく振りかぶった。
しかし彼の行動は徒労に終わる。
「遅い」
底冷えするような声でセレスは告げる。彼女はルーマスの拳が直撃する前に大剣を振り抜いた。眩い白光が周囲を照らしながら放たれ、凄まじい轟音が響き渡る。
「あ……」
放たれた光はルーマスを直撃し、体の半分程を抉っていた。そんな状態でも彼の体は再生しようとしている。しかし損傷を負った部分が多いためか再生に時間がかかっていた。
「ぐう……」
「しぶといなあ。でも次で本当に終わりだ」
再びセレスは魔力を練り上げ始める。体が抉られているルーマスは彼女の攻撃が来ることが分かっていても避けることが出来ない。
「う、うわあああああああああああああああああああああああああ!」
初めてルーマスが恐怖の感情がにじみ出た声をあげる。その叫びは死への恐怖からだろうか。しかし彼にはこの死をもたらす攻撃をどうすることも出来なかった。
「これで……終わりだ!」
セレスは再び大剣を振り抜く。膨大な魔力が解き放たれてルーマスを飲み込んだ。あまりの眩しさにルーシェは目を閉じてしまう。
やがてすべてが終わった後にはルーマスの痕跡はなにも残っていなかった。文字通り跡形もなく吹き飛んでいる。
そしてセレスは涼しい顔をしてその場に立っていた。あれだけ凄まじい戦いをしていたのにその場に平然と立っている。
「よし、ひとまずはこれで終わりだね」
ふうと息を吐いた彼女はしっかりとした足取りでルーシェのほうへと向かってくる。
(綺麗……)
彼女の体はルーマスを斬った際の返り血に染まっていた。綺麗な銀の髪や白い肌のあちこちにも血が付着している。
それでも月明かりに照らされ闇に浮かび上がるその姿は凄絶さを帯びた美があった。ルーシェはそんなセレスの姿に目を奪われていた。先程の戦いで見せた剣技や魔力を練り上げた一撃も頭から離れてくれない。
(ああ――この人と――本気で戦ってみたい、超えてみたい。この人となら――)
今まで出来なかった夢に見た心躍る戦いが出来そうだなどと、敵うはずもないのにルーシェはいつのまにかそんなことを思っていた。
(って私はなにを考えているの、助けてくれた人になんてことを)
頭を振ってそんな自分の願望を消し去る。
「ありがとう、君のおかげであいつに勝つことが出来た」
そんなルーシェの考えを知る由もないセレスはルーシェにお礼を述べて頭を下げてきた。
「い、いえ……私はなにもしてないから……」
というよりもセレスがあのルーマスと言う男を倒してくれなかったら今頃ルーシェは間違いなく死んでいただろう。セレスには感謝こそすれ、お礼を言うのは自分の
ほうだとルーシェは思った。
それよりも今はもっと大事なことがある。
「私のほうこそ助けてくれてありがとう。でも本当にあなたは何者なの? あの男があなたの事を帝国の初代皇帝と言っていたけど本当なの?」
あのルーマスと言う男はセレスのことを帝国初代皇帝と言っていた。信じられないけど彼の言っていたことは本当ならば彼女はとっくに死んでいる人間ということになる。
ルーシェの質問にセレスは答えにくそうに頬を掻くがやがて首を縦に振った。
「そうだよ、あいつが戦いの際に私について言っていたことは正しい。私の本当の名前はセレスティア・エレメイン、この帝国の初代皇帝だ。私は女神の力によってこの時代に蘇った。といっても完全な状態じゃないんだけどね」
「この時代に蘇ったなんて……人を生き返らせることなんて可能なの?」
まず女神が蘇らせたというところからして荒唐無稽な話だとルーシェの感覚では思ってしまう。女神なんて存在もお伽話で語られるようなものだ。
「そこはそういうものだと思ってもらったほうが早いかもしれない。ともかく女神は実在しているし彼女にはそういう力があるんだ。私も実際にこういう状態になるまで女神なんて信じてなかったよ」
「……あなたが言っていることが本当なら女神の力ってとんでもない力だね」
ルーシェはセレスの話にもうついていけなくなりそうだった。現実感がなくて理解が追い付かない。
「私はどうやら女神に気に入られてしまったようでね。あなたに試練を与えてその試練を超えることが出来たら願いを叶えると言われてしまったのさ」
「願いを叶える……?」
「そう、そして君には……大変申し訳ないけど私が願いを叶えるのに協力してもらうよ」
セレスはそう言ってルーシェを見つめる。彼女の視線に射貫かれたルーシェは反論することができなかった。
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