第6話

「おい!川辺じゃないか!」





あともう少しで教室、というところで、後ろから先生の声がした。





っていうかこの声、柴田じゃね?



「やばっ」




俺は慌てて走り出す。



校内で全力疾走はダサいけど、柴田に捕まる方がもっとダサい。




体育教師であり生活指導でもある柴田は、いろいろとしつこい事で有名だ。




一度目を付けられれば何かにつけてイチャモンをつけてくるし、捕まってしまえば反省文と長い説教。更に学校中のトイレ掃除までさせられる。




女子トイレならまだしも、男子トイレの掃除なんて誰がするかよ。




「待てぇ!お前今日委員会サボったろ!」




しかしダテに体育教師なんてやってない。柴田は物凄いスピードで俺を追い掛けてくる。



日頃廊下を走るな、なんて喚いてる奴はどこのどいつだよ。





このまま真っ直ぐ行けば教室だ。しかしそれじゃあ行き止まりになって確実に柴田に捕まる。





進路変更。俺は急遽昇降口まで向かう事にした。



右に曲がって、手すりのペンキが剥げている階段を駆け降りる。



…………と、前方には女子生徒が1人、階段を上って来ていて。




ぶつかる、そう考えた瞬間強い衝撃を感じた。





冷たい廊下に身体が叩きつけられる感覚。


自分のものではない他の誰かの感触もある。


情けないことに俺は階段から転げ落ちてしまったらしい。



「いってぇ……マジごめ、」




巻き込んでしまったことに一応謝罪を、と顔を上げると、そこにいたのは予想外の人物だった。

謝罪の言葉を言いかけて思わず止める。



「……。」




相手も珍しく驚いた表情をして、お互いに黙り込んだ。

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